第3章 どこでもない場所
「…随分とじじいの長話に付き合わせてしまったな。審神者殿、最後にもうひとつ頼み事をしてもいいだろうか」
「なんでしょう?」
YESとは答えず続きを促す。
「俺と主従の契約を結んでほしい」
「えっ?」
それは、つまり、私を主として認めてくれるということか。
呆然と立ち尽くす私を見て、三日月さんは困ったように眉を下げる。
「そこまで驚かれるとは心外だが…
主従の契約を結べば、審神者殿は俺をもう少し信用できるだろう?
何かあれば言霊で俺の動きを縛ることだってできる」
「……私と契約を結べば、前任の審神者との縁が切れてしまいますよ」
「彼女は…どんな事情があれど、審神者としての役目を放棄して姿を消した。それは真実だ。こうして政府が新しい審神者を派遣した以上、俺たちは契約を結び直すのが道理だろう」
「それは…そうですけど……」
凛とした声で彼は淡々と告げた。
彼なりの覚悟なのだろう。これ以上ない“縛り”を己に課そうとしている。
まだ出会ったばかりだし、明日の夜明けにはこの本丸を去る予定なのに。
それでも私を主人として認めてくれるらしい。
もう彼が何かを隠していようが、嘘をついていようが、なんでもいい。
信じよう。信じたい。信じるんだ。私に向き合ってくれる彼のひたむきさを。
「……分かりました。契約を結びましょう」
「あいわかった。
俺の名は三日月宗近。打ち除けが多い故、三日月と呼ばれる。主、これからよろしくたのむ」
辺りが眩しく光り輝く。神域の中、ひとつの契りが結ばれた。