第3章 どこでもない場所
前任の審神者は極めて模範的な人物だったそうだ。
無理な出陣もせず、刀剣男士を家族のように大切にし、霊力も豊富で、優秀な審神者。
しかし、本丸ができてから何年も経ち、いつも通りに出陣をこなす、何も変わったことのない、よく晴れた日の夕方。
彼女は突然本丸から姿を消した。
消えた審神者にみな動揺した。
現世に帰ったのかと思ってゲートを確認したところ文字化けした座標の読み取れないログが一件残っていた。解析を政府に頼んだが、複雑な暗号や術式が用いられていて、依然として座標は分からないという。
彼女が自発的にゲートでどこかに転移したのか、なにか事情があってゲートを開いたのか。政府は最初、執務室には荒らされた形跡があったことから、賊が入ってきて彼女は一人で逃げたのではないかと疑っていたらしい。
しかし、神格の高い刀は口々に
「結界が破れて外部から賊が入ったような形跡はない」と。
では内部の刀剣男士が怪しいということで、刀剣男士に対して、政府の厳重な捜査が執り行われたが、なにも証拠のようなものは見つからず、事態が解明することはなかった。
「『ゲートのログはフェイクで実は神隠し案件だった…』という可能性はなかったんですか…?貴方のように」
私はジトっと彼を責めるように言った。
三日月さんは苦笑しながら
「その可能性を考慮して刀剣男士は政府に神域まで調べられたさ。だが、彼女はどこからも見つからなかった」
と飄々と答えた。
彼は話を再開する。
曰く、
審神者が消えたので、本丸に残る霊力が残り少ないこと。
かすかにだが、本丸内に瘴気が漂い始め、結界に綻びが生じ始めていること。
刀剣男士の身に原因不明の現象が起きつつあること。
姿が見えない刀がいるのは、霊力不足により顕現を解いたから。
本丸にきてから息苦しかったのは瘴気が漂っているから。
前任の審神者の結界の紙がところどころ焦げていたのは、瘴気によって綻んでいたから。
重傷で見つかったという山姥切国広も、「原因不明の現象」のひとつらしい。
今まで訳が分からなかった違和感たちが線で繋がっていく。
とすると、鶴丸国永と出会った時に『あの人を救ってくれ』と頼まれたのも、前任の審神者の行方を探してほしい、という意味だったのだろうか。