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【刀剣乱舞】逃げてもいいですか?【完結】

第3章 どこでもない場所


 三日月は状況を理解して青褪めている私を見て笑った。


「笑ってる場合ではないです」

 私が振り返って睨むと、また彼は声を出して笑った。

おそらく全力で笑っているのに、彼の、品のある香り立つような美しさは損なわれるどころか、よりかぐわしさを増している。


 刀剣男士は人の肉体をもっていても、人間じゃない。


ようやく教科書で習ったその意味が分かった気がする。
美しすぎて化け物じみている笑顔を、内心呆然としながら私は睥睨し続けた。


 無邪気に、くつくつと笑い続ける三日月さんを見ていると、だんだん、神様相手に怒っても無駄かという気分になってきた。

 いくらニートとて、こんな訳の分からない笑い上戸の神域で一生暮らすなんて御免蒙る。早くここから脱出するために、ひとまず目の前の神様の機嫌を取って説得しなければ。


 しかしながら、冷静に考えてみると、音によく聞く「審神者を対象とした神隠し」と、今この状況はまるで違う気がする。


 第一、神隠しされた理由が分からない。普通なら「彼が私に好意を持っているから」と考えるのが妥当なんだろうが、まだ出会って半日も経っていない。好感度が大きく上がるような特別なことをした訳でもない。

 それに、この三日月宗近はなにかにつけ多少距離が近いとはいえ、恋愛感情を私に抱いているような素振りは見えない。
むしろ、一定の距離を置いている。



 だって彼は今まで一度も私のことを「主」とは呼ばなかったのだ。



 やはりおかしい。この状況はおかしい。


 俯いて考え込んでしまう。三日月さんはまるで子供を相手にするように、膝を曲げてかがんで、下を向いた私の顔を覗き込んだ。


「俺が審神者殿をここに連れてきた理由が気になる…とでも言いたげな顔をしているな」

「……それだけじゃないです。なぜ私の名を知っていたのです」

声が震えないように感情を押し殺しながら私は尋ねる。


 無言で、彼はたおやかな人差し指を、薄く柔らかな唇に押し当て、小首をかしげた。しゃらりと彼の髪飾りが揺れる。


 秘密……だとでも言いたいのだろうか。

 ふざけないでほしい、こちらの命に関わる問題だ。苛立ちさえ感じるのに、仕草がやけに艶かしいせいで、何も言えなくなってしまう。
心臓の拍動がうるさい。
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