第2章 雪国
ようやく今度こそ正真正銘の一人だ。
ここで、ふと気付く。
あれ、こんのすけは?いつからいない?
行方不明という言葉が頭によぎったが、すぐに打ち消す。きっと本丸内を別行動しているだけだろう。こんのすけとて、四六時中審神者の傍に着いて回る訳ではない。
嫌な想像を振り払うように、結界の術が書かれた紙を、鞄から勢いよく取り出した。ただ星形の陣が描かれている小さな紙切れだが、事前に政府に支給された、正真正銘の呪具である。
結界の術の正体は陰陽術の一種で、この紙に霊力を流すことで完成する。
既にある結界の上から守護の術を重ねるイメージで、魔法陣に霊力を満たしていく。
しかし、早急に補強しないといけないほど結界が消耗するなんてどういうことだろう。
引き継ぎの間、審神者が不在になる本丸に対しても、政府からの霊力の供給によって結界は維持される筈なのに。
結界に霊力を流していく間も、嫌な予感が止まらない。しかも時折、かざした手の平に、まるで同じ極の磁石を近づけたときのように、嫌な反発の力を感じるのだ。
もしかしたら完全には術を展開できていないかもしれない。
とりあえず霊力は流し終えたので、紙を目の前にあるデスクの中にしまいたい。このデスクには、これまた特殊な術がかかっていて、人間にしか引き出しを開くことができない。刀剣男士に見られると困る重要な書類はここにしまっておくのだと、審神者事前講習で習った。
金具が錆びているのか少し立て付けの悪い引き出しを力を込めて引っ張る。
ギュイーーと重々しい音がしてそれは開いた。
なぜか、焦げ臭い匂いがした。
中には綺麗に書類がファイリングされてしまわれていたけど、私が持っているのと同じ紙___結界の術が描かれた紙が所々燃えていたのである。
(だ、大丈夫なのか、これは……)
些か…いや、かなり心配になりつつ、臭いものには蓋をしろ精神で、デスクの中に私の紙もしまって、引き出しを思い切り押して閉めた。
事情が分からない以上何もできない。とりあえず三日月さんに心当たりを聞こう。