第2章 雪国
さて、ちょっとしたアクシデントはあったが、既に挨拶も緊急の手入れも終わり、かなり順調だ。時計は確認していないが、太陽の位置からしてだいたいお昼頃だろうか。結界の補強が終わったらご飯を提案しよう。
三日月さんはいつも通りの涼しい顔にすっかり戻って、結界の中心地である執務室に案内してくれる。道中、すれ違った薬研藤四郎に、山姥切国広の手入れは完了したがまだ目覚めないことを伝え、様子を見てくれるよう依頼した。
しかし、この本丸、見た目は綺麗に保たれているのに、築年数がかなり経っているのか、歩くたびに床がギシギシと鳴るのが少々不気味だ。最初に「幽霊が出てもおかしくない」と言った三日月さんの発言がいやに実感をもって感じられる。
そんなことを考えながら歩いていると、執務室に着いた。執務室の隣はサーバールームになっているから不用意に立ち入らないよう、前を歩く三日月さんから注意される。
本丸全体は和風建築だが、執務室とサーバールームだけは洋風というか所謂現世のオフィスのような作りになっているようだ。剥き出しのフロアタイルの上に靴下でも滑らないよう、フカフカのラグマットが敷いてある。
電子機器や書類が整理されて並んでいて、前任の審神者は几帳面で真面目な性格だったのだろうと推し測ることができた。
私はすぐこの部屋をぐちゃぐちゃにしてしまいそうだ、先が思いやられる…
「三日月さん、結界は刀剣男士の前では張ることができないので、少しこの部屋の外で待機してもらうことは可能ですか?」
政府の規定で、特殊な術式に関しては、刀剣男士には秘密にしなくてはならない。
「わかった」
事情があることを察して、穏やかに頷いた三日月さんは執務室を静かに出た。
パタリと外開きの戸が閉まる。一応、内鍵をかけたところでふぅと一息つく。