第2章 寂しいネコ
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結論から言えば、俺の目論見は失敗した。
あの日の後、数日間にわたって「出ていけ」「嫌だ!」と不毛な応酬を繰り返したが、結局、音子を追い出すことができなかった。俺が根負けした形だ。10日経った今でも、俺と音子の奇妙な共同生活は続いていた。
ずっと着たきりすずめ(着たきりネコか?)というわけにはいかないので、服屋やドラッグストアに連れて行き、下着を含めて何点かの衣類や女性が生活するのに必要な用品を購入した。狭い部屋で物を増やしたくはないのだが、しょうがない、音子用のカラーボックスをリサイクルショップで購入し、そこに洋服を含めた彼女の生活用品を入れることにした。
生活上のことであるが、音子は基本的に何でもできた。料理、洗濯、掃除、およそ家事と呼べるものは一度教えればその通りにかなり完ぺきにこなしてくれた。
夜になると相変わらず俺と同じ布団で寝たがるのには辟易した。布団を買い足そうとも思ったが、置く場所がない。次善の策として、キャンプ用のエアを入れて膨らませる簡易マットにシーツを掛けて代用することにした。俺がそっちに寝るつもりだったが、音子が寝ると言い張ったので、そうすることにした。
ただ、朝になると、音子は俺の方に寄ってきており、ピッタリと背中に張り付いていることがあり、それはそれで起きぬけに困惑することが度重なった。
最初は戸惑っていた音子の存在も、1週間もすると慣れてきてしまった。家に帰ると夕食ができている。朝も早く起きて、朝食を作ってくれる。一人暮らしの俺にとって、家事をしてくれる音子の存在は正直ありがたかった。
前は真っ暗な家に帰るのが気が重く、家はただ風呂に入って寝るだけの空間だったが、今では生活の場として機能するようになっていた。不覚にも、早く帰りたいと思うようになっていた。
音子のいる生活は、温かかった。
そんなある夜、いつものように音子が俺の背後にいる気配を感じながら横になる。
「市ノ瀬さん?」
「なんだ?」
「なんでいつも音子の方を向いて寝てくれないんですか?」
なんでって・・・、なあ・・・。
「こっち向いている方が寝やすいからだよ」
「じゃあ、位置を代わってください」
いやだよ、と言ったが、何度も何度もしつこく言うので、寝る位置を音子と代えた。
ころん、と、やはり音子とは逆の方を向いて寝る。
