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ネコの運ぶ夢

第2章 寂しいネコ


髭を剃り、髪をとかし、着替えをする。この季節は軽装でいいので、ワイシャツとパンツで出勤だ。カバンを持って、玄関ではたと考えてしまった。

「美鈴さんは、その・・・昼間はどうするんですか?帰ら・・・ない?」
洗い物を終えて、ダイニングで新聞を見ていた音子は、顔をあげると、「帰る」という言葉に反応し、またじわっと目に涙を浮かべる。

「音子は迷惑をかけませんので、ここにいてはだめですか?
 暑くても扇風機も冷房も使いません。お家の中でじーっとしています。なんなら呼吸も最小限に・・・。だから、だから・・・・!」
必死に訴える。

やっぱり・・・。
俺はちょっと嘆息する。
「暑かったら冷房をつけてください。体に悪いです。
 もちろん呼吸もしてください。
 ここに鍵を置いておきますので、もし出かけるときには、鍵はかけてくださいね。あと、お昼ごはんはお金をおいておきますから、近くのコンビニで買ってください。」

一応、貴重品と呼べるものは全てカバンに入れて持って出るので、まあ、問題はないだろう。
若干の不安はあるが、俺は音子を置いて仕事に行くことにした。

通勤途上で考える。
一体、音子の正体はなんなんだろう?
昨夜、躊躇なく、俺の股に手を伸ばそうとしてきた。「そういうこと」に慣れているのだろうか?そうはいっても、あまり水商売系の感じもしない。
かといって、いきなり知らない男のうちに上がり込み、「いさせてくれ」だなんて、通常はありえない。「警察に言わないで欲しい」と言っていたのも気になる。

考えてもどうにも整合性のある答えは導けなかったので、結局考えるのをやめてしまった。

ただ、その日一日、俺はどうにも落ち着かず、部下の女性からも「どうしたんですか?」と聞かれてしまう始末だった。ミスこそしなかったが、大分ぼんやりとしていたようだ。

ふとした瞬間に音子のことを考えてしまう。
音子は美人だし、若いし、俺も男だ。同じ空間で、ああも無防備にされれば妙な気持ちになってしまうこともある。据え膳喰わねばという言葉はあるが、それを実行してしまうほど無鉄砲でもない。素性の知らない女性をどうこうするわけにもいかないだろう。

とにかく、面倒事はゴメンだ。
早く、決着をつけなければならない。
今夜こそ、音子をなんとか家から追い出そう、そう俺は決心した。
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