第1章 出会い
目的地らしい場所に着いた。
そこは建物一つない、広々とした草原が広がっていた。
「本当にここ?」
私は方向音痴なので疑ってしまう。だが、その時とは違う、謎の自信があった。──絶対にここだろう。
数分後、彼とそいつは来た。
私は自転車を立て、扇子を取り出した。
ばさっと開いた。
──目を瞑って。深呼吸をして。
「こう!」
すると、吹雪がそいつに向かって吹き、叫びながら消えていった。
「ふぅ……」
意外と疲れるんだな、と実感する。だけど爽快感はあった。
「あの……。大丈夫てすか…?」
ぐったりしている私を見て、彼は言った。
「あ、だ、大丈夫、です……」
私の癖が出てしまった。初対面の人と会話をする時は言葉が詰まる。そのせいで友達は一人。学校生活も楽しめないものだ。
「さっきはありがとうございました。……さっきの、視えてたんですか?」
「い、いえ。大したことしてませんから。……さっきのって、あの変なやつですか?」
彼はゆっくりと頷く。
「視えてました。くっきり」
私は笑顔を向ける。気まずい時の必殺技だ。
「そうですか。あの、よければ名前を……」
「な、名乗るような人ではありませんから!」
そう私は言ったが、すぐに否定した。
「……ごめんなさい。言ってみたかっただけなんです。井舞柚希です」
彼はふっと笑って自己紹介をした。
「おれは夏目貴志。よろしく。井舞さん。……もしかして中学生?」
「あ、はい。そうです」
「そっか。おれは高校生なんだ」
「そう、なんですね」
私はどう話していいか分からなくなった。まだ会ってから時間も経っていない、共通の話題もない。また、例の気まずい時の必殺技である笑顔が張り付きそうになる。
すると、彼は笑った。
「ごめん、人違いで。知り合いに君と雰囲気の似た子がいるんだ。つい聞いちゃった」
「え、どう、して?」
「うーん……。頑張りすぎなくていいって言ってあげたくなったから、かな」
彼は真面目な顔に戻る。
「無理して笑ってるの、気づいてたよ」
「えっと……」
私は返事に困った。
「じゃあ、また」
彼は手を軽く振り、歩いていった。
──なんだったんだろう。
爽やかな夏風が通り抜けていった。