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悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について

第12章 ヴァイオレットとしおり


「お嬢様!ローゼン家として、そのお振る舞いはいかがかと」
昔、家庭教師に叱られた言葉が胸に去来する。
それは私が十歳の頃、メイドたちと鬼ごっこをしていた時の記憶だった。

――公爵令嬢として、奔放でいることは許されない。

「ヴァイオレット。お前の婚約者ルシアンが、我が国最年少で公爵位を賜った。
お前は嫁ぎ先に恥じぬ女性にならねばならぬ。付き合う相手もよくよく考えて交流しなさい」

まだ会ったこともない婚約者の存在を告げられたあの日。
愛してくれるかも分からない不安な約束。
それは幼い私の心に重くのしかかった。

初めて会ったルシアン様は、氷の公爵に相応しい冷たい眼差しで私を見据えた。
よそよそしい態度、名目だけの面会が月に一度か二度。
「この人は私に好意を持つことがあるのだろうか?」
そんな疑問がいつも胸に浮かんだ。

だが、貴族社会では家格で結婚が決まる。
そこに愛は必要なのか?
小さい頃は奔放でいられた。社交界デビューを果たす十二歳までは。
だが、許嫁として公にされた瞬間から、冷たい眼差しが私を縛りつけた。

この先に幸せはあるのだろうか。
いや、幸せの代わりに贅と特別階級位を得ている。
おとぎ話のような結末は訪れない。
歳を重ねるごとに、人生は辛く暗いものになっていった。

――だからこそ。

私はそんなヴァイオレットを変えるために転生したのかもしれない。
彼女の孤独とプレッシャーを理解し、仮面の裏に隠された本当の心を救うために。

しおりとしての私と、ヴァイオレットとしての彼女。
二つの存在が胸の奥で重なり合い、葛藤と悩みを織り成していた。

「この世界で、彼女を変えられるのなら……それが私の役目なのだ」
私は心の中で強く宣言した。
――私は『氷の微笑』のヴァイオレット・ド・ローゼンから変わって見せる。

冷たい仮面に守られてきた過去を脱ぎ捨て、今度は誰かを守るために歩むのだ。
その決意を胸に、私は足を速めた。
向かう先は、アメリアがいる医務室。
彼女を傷つけた出来事を、ただ見過ごすわけにはいかない。

廊下を進む私の背中に、静かな視線が注がれていることに気づいた。
振り返らなくても分かる。――ルシアン様だ。

彼は何も言わず、ただ私の背を見守っていた。
氷の公爵と呼ばれるその人が、冷たい眼差しの奥に何を抱えているのか。
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