悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第11章 文化祭とヴァイオレット
ユリウス様は茶器を抱えたまま、真剣な眼差しを向けていた。
その視線は、家宝を守る責任と、私の変化を見極めようとする兄の眼差しだった。
私は再び微笑みを貼り付け、執事らしく一礼する。
「ご心配をおかけしました。茶器はすぐに戻しますわ。……ですが、マーゴット嬢への対応は、必要な演出でしたの」
ユリウス様は深い溜息をつき、茶器を抱えたまま視線を逸らした。
「……やはり、君は昔のままなのかもしれないな」
その言葉が胸に重く響き、私は氷の微笑を崩さぬまま、心の奥で小さな痛みを抱えていた。
「昔のヴァイオレット」
――その響きが、私の胸に深く突き刺さった。
ユリウス様の言葉が頭の中で反響し、心をざわめかせる。
ヴァイオレットになって、ひとつだけはっきりと分かったことがある。
それは、公爵令嬢として背負わされるプレッシャーだ。
立場が高ければ高いほど、人々の態度は変わる。
近づいてくる者は、笑顔の裏に打算を隠し、言葉の奥に欲望を潜ませる。
彼女はそれを冷めた目線で捉えていた。
公爵令嬢として生きるしかない人生のレール。
そこから外れることは許されず、ただ役割を演じ続けるしかない。
だからこそ、彼女の意地悪や高慢な態度は、孤独とプレッシャーが築き上げた防壁だったのだ。
私は紅茶を注ぐ手を止め、ふと自分の胸に問いかける。
(……本当に意地悪だったのか? それとも、孤独を隠すための仮面だったのか?)
氷の微笑を浮かべるたびに、心の奥で小さな痛みが走る。
それは、ヴァイオレットの仮面をかぶった私自身が、彼女の孤独を追体験している証だった。