第4章 重症:ヒロインside
私はいつも通りに彼の部屋をノックする。
返事もなく扉が開けられる。
「あれ、今日もキミなんだ。
そろそろ黒鋼が来るかと思ってたよ」
「……すみませっ……」
ほぼ無意識に出た謝罪の言葉を遮るように、ベッドに押し倒された。
私は重症だ。何でもいいから彼に構ってほしいと思ってる。
ファイさんは何も言わないまま私に跨って、シャツのボタンを2つほど開ける。
彼にとっては食事の時間以外の何ものでもないのだろうけど、本能的に羞恥心と不安感が過ぎる。
ファイさんは、真っ直ぐにこちらを見てくる。
そして、私の右手に彼の左手を重ねてきた。
「ファイさん……?」
今までこんなことはなかった。
彼の意図が読めず、彼を見上げる。
しかし、ファイさんは何も言わないまま、私の首筋に牙を立てた。
牙で傷をつけられる痛みは、一瞬のものではあるけれどなかなか慣れない。
無意識に右手に力が入って、ファイさんの手を握ってしまった。
彼は血を飲む間、手を繋いだままにしてくれた。
……あぁ、やっぱりファイさんは優しい。
私はつくづく重症だ。
血を飲ませる行為が嫌ではないのだから……。
次に目を開けた時、そこはいつもの自分の部屋だった。
リビングには黒鋼さんがいて、
「貧血だろ。ぶっ倒れられる方が迷惑だ」
と声をかけられた。
どうやら、私はあのまま気を失って、その私を黒鋼さんが運んでくれたようだ。
「ありがとうございます。黒鋼さん」
右手には、まだ温もりが残っている気がした。
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※次のページからファイ視点です。