第2章 奪われた初恋と手に入れた女
「お願い……悟くんには……悟くんだけには言わんといて……。」
その言葉を聞いた瞬間、直哉の片口がゆっくり持ち上がる。
「……急に声出したな。」
直哉のその表情を見て、仁美は自分の失態にすぐに気が付いた。
だけど咄嗟に出た言葉はもう消せない。
仁美に対して苛立ちは少しあったが、この反応を見れただけでも満足だった。
指先で仁美の涙腺のあたりを軽く撫でながら言った。
「悟くんの名前出したら、こんな震えるんやな。」
その声は甘くて、底が真っ黒でなんの感情も読めない。
仁美は悔しさと恐さと混じった目で直哉を睨む。
直哉はその視線ごと抱き寄せ、耳元に唇を寄せて囁く。
「心配すんな。お前が“必死になって頼むんやったら”、悟くんには黙っといたる。」
直哉はそう言うと、仁美の両肩を掴み、下に押しつけるように仁美を膝跨がせた。
不安そうに見上げる仁美の表情に、直哉の口角はまた上がる。