第8章 弱音と強がり
紅の家を出て解散するときには、もうすぐ夜が明ける時間になっていた。
しかし、眠気がくることもなくマイの頭のなかはスッキリしていた。
アパートの前までくると、マイは足を止め目を見開く。
『カカシ…さん。』
「うん…遅かったね…」
アパートの2階へ続く階段に腰かけたカカシが、マイへと声かける。
しかし目線は斜め下を向きばつが悪そうにしている。
『もしかして…あの後から…ずっと待ってたんですか?』
ゆっくり立ち上がったカカシは、マイの目の前まで近づくと、気まずさから目線を泳がせ、緊張からか頭をかいて顔を背ける。
「…謝りたくて…さ。本当に悪かった。」
"見える部分だけで…離れていた時間のアイツを決めつけるのは違うだろ?"
アスマの言葉を胸に、マイは一歩踏み出す。
『私…進むことに決めたんです…。
色々な事に、真っ向から向き合う事に決めたんです。』
謝罪への返答ではなく、自身の事を語り出すマイに戸惑いながらも、カカシは真っ直ぐマイを見つめる。
『だから…任務必ず無事に帰って来てください。』
貴方にも…向き合うと決めたから…
「分かった…」
カカシは、そう告げると
家路についた。
突き放されると思っていたカカシは
突然のマイの言葉に、驚いた。
前へ進む…
向き合う…
必ず無事に帰って来てください…
詳しい意図までは、カカシも読み取れなかったが、少し穏やかな気持ちになっていた。
そして…自分を幸せにしてくれる
たった一人の女性との、本当の意味での再会があるのだろうと…。
必ず無事に帰ってくる…。だからそのときは、またあの頃のように全部教えてくれないか…。
君が背負った運命も…俺の知らない君の時間も…。
カカシはそっと呟いて、幸せそうに微笑んだ。
"おかえり…マイ…"