第11章 親心と男心
鳥達も寝静まった漆黒の中を
風を切るように走り、マイは自宅へと帰ってきた。
面を外し、直ぐ様身に付けていた着衣を洗濯機へと放り込むと、風呂場へ駆け込む。
シャワーから流れる温かいお湯が全てを洗い流していく。
何人切っただろう
何人の血を浴びただろう
黒髪にベッタリとついた鮮血が、湯にまじり排水口へと流れていく。
決して後悔などしていない、しかしマイは優しすぎるのだ。
否、水流園の者は皆、任務の後にこのような思いをしていたのかもしれない。
木ノ葉に尽くせる嬉しさ、それが支えていたのだろう。
『でも…慣れないな…血は…』
水音に掻き消される程の小さな声で呟くマイ。
これでいいと思ってきた。
これが運命だと信じてきた。
しかし、そんな自分の思いも運命も全てを包み込んでくれた火影…
そして、木ノ葉…。
だから前に進める。
マイはシャワーから流れる水と共に
涙を流した。
決して辛い涙ではなく、嬉しさからのものだった。
任務後にはじめてマイは笑えた気がした。
沢山の命を奪った自分が
沢山の犠牲の中を生き続けた自分が
胸をはって生きていいのだと
自慢の水流園の家族を
皆に認めてもらえるのだと
『嬉しかったな…』
正当化するつもりはない。
しかしマイは、自分が歩んできた
この殺戮の日々に心から胸をはることは出来なかった。
だからこそいつも苦しかった。
人を殺める事に慣れることなど、優しいマイには出来なかった。
でも今なら…
今なら水流園のこの暗部の歴史を胸をはって言える…
『水流園は里と共に生きてきた…』
マイは火影や皆の言葉を思い出していた。
ナガレの思いを継がせてほしいと
水流園の想いを酌んでくれた火影。
自分の存在が危険を及ぼすかもしれないのにも関わらず、仲間であると受け入れてくれた皆。
水流園は木ノ葉の誇りと、讃えてくれた皆。
『もっと強くなる…。自分を皆を守れるように。
綱手様や…自来也が生かしてくれたこの命を、私は無駄にはしないよ…。
ひー爺様が守ってくれた水流園の誇りを胸に、私はもっと強くなる…。
私の大好きな木ノ葉を…
守るよ…父さん…』