第1章 出会いは病院で
「そんな、そんな!カートを拾っていただいただけでもありがたいのに、そこまでしていただいて…かえって恐縮です。本当にありがとうございます」
潔が申し訳なさそうに頭を下げると、英美子は慌てて首を振り、再び深く頭を下げた。
「皆様には本当に助けていただいた上、ご迷惑までおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。このとおり、もう一人で動けるようになりましたので、改めてお礼をさせていただきたく思っております。今日はどうぞお引き取りいただいて構いません。本当に、ありがとうございました」
英美子は三人に向かって、深々と頭を下げた。
英美子の礼には、確かに感謝があった。だがそれ以上に、「ここで終わりにしましょう」という心の一線が敷かれていた。
丁寧で、礼儀正しく、けれどどこか遠くへ行ってしまうような、そんな距離感があった。
千切、潔、蜂楽は沈黙に落ちた。
彼女の意図が伝わったからだ。
そんな3人の沈黙を破ったのは、カーテンが開く音だった。
「桜沢さーん、そろそろ点滴終わったでしょ?」
点滴の様子を見に来た看護師の明るい声が、張り詰めていた空気をふっと和らげた。
見ると、点滴バッグの中はすでに空になっていた。
看護師は英美子の腕を取り、手際よく針を抜いて処置を済ませると、
「それじゃ、落ち着いたら帰って大丈夫ですからねー」
と声をかけ、軽やかにベッドサイドを離れていった。
その言葉を合図にするように、英美子はもう一度三人に向かって頭を下げた。
「本当にありがとうございました。私も帰りますので、どうぞ皆さんも……」
別れの挨拶を口にしかけた、その瞬間だった。
「よいしょっと!」
蜂楽が突然、英美子に歩み寄り、軽々と彼女を抱き上げた。
「えっ……?」