第2章 夢うつつのあの人
──── 花凪野さやか
実弥はこの生徒のことを考えると妙に胸が騒いだ。
数学を教えているだけで、それ以上でもそれ以下でもない。担任でもなければ、部活でも関わっていない。
ただ、なぜか、いつも気になってしまっている自分がいた。
廊下ですれ違う度、体育の授業に出くわす度、委員会や部活動で見かける度に彼女になにかを感じているのである。
この感覚は非常に心地が悪く、原因も分からなければ解決方法もない。
例えば、これが恋愛感情ならばひたすら隠すしかなかった。だが、それすらも分からない。
実弥はこういう時いつも宛のない怒りに拳を握りしめるしかないのだった。
(……冨岡、なにか知っているのか…?)
実弥の勤める学校に「さやか」はひとりしかいなかった。
だが目立たない、ごく普通の生徒である。
(同じ名前の他人かもしれないし、冨岡に確認するのは気が引けるな。)
実弥は白い髪を徐にかきあげ、また家路を急いだ。