第1章 熱に浮かされて
────ザッッ
「……?」
いきなり人の気配が現れた。まるで師範のように。
(……たぶん、階級の高い人、だわ。)
(……それにしても、…………!?)
次の瞬間────
なぜかさやかはその人に抱きしめられていた。
清潔な香りが鼻を掠める。
強く抱きしめられ、何がどうなっいてるのかよく分からない。
でも、なんだか不思議と安心感がある。やはりひとりで戦うのは心細かったのだろう。
ドクン…ドクン…
ドッドッドッ
ふたりの心臓の音が重なって、しかしさやかにはもうそれだけでなぜか本当に嬉しかった。
温かさを感じて、さやかはその人の名前を知りたくなった。
「……だ…れ…………?」
思ったより掠れた声が出た。
(はは。そんなに私……もうだめなのね、師範ごめんなさい…)
ドクン…ドクン…
その人は何かを言ったようだったが、さやかにはもう聞こえていなかった。
そしてさやかは深い微睡みの中に、ゆっくりと落ちて行ったのだった。