第23章 芦原の確信
棋院内のカフェ。カウンターに白川と芦原が並んで座り、コーヒーを飲みながら楽しそうに雑談をしている。師匠である森下九段が塔矢門下を目の敵にしていることを、白川がおもしろおかしく話す。星歌はカウンター内でコーヒーを準備したりカップを洗ったり、いつものように動き回っている。新年の穏やかな喧騒の中、カフェには棋士たちの笑い声が響く。
「志水くん、ゴッホ展行った?」
「はい!年末に行きました!素晴らしかったです」
「そっか、ご両親と?」
「いえ、両親は2人で行ったので、私は知人と行きました」
「前に一緒に印象派展に行ってた人かな?」
「…まぁそんな感じです」
星歌は曖昧に答える。
「年末に美術館デートか、いいね」
「だから、そんなんじゃないですよ!」
ニヤリと言う白川に、星歌は慌てて手を振って否定する。
芦原はそんな2人の様子を見て、星歌ちゃんが美術館デート?と軽くショックを受けている。知人って、同級生や友だちだったらそう言うだろうし…まさか…緒方さんかな…。
「美術館か〜。オレもちょっとアートを勉強しようかな〜」
不安を隠すように芦原は明るく言う。その後もしばらく雑談が続くが、芦原は上の空。やがて残りのコーヒーを飲み干して立ち上がった。
「さて、オレ、指導碁の仕事行かなきゃ。駅から遠いんだけど、緒方さんが送ってくれるんだよね」
無理に明るく言う。
「緒方先生いらしてるんですか?」
「うん、上の出版部で取材受けてるよ」
芦原は冷静に答えるが、緒方の話をするときの星歌は少し嬉しそうに見えて、やっぱり緒方さんのことが好きなのかな…?と、寂しさが募る。
「じゃ、行ってくるわ」
芦原は軽く手を振ってカフェを出て、駐車場へと向かう。
「オレも囲碁教室行かなきゃ。ゴッホ展の話、また聞かせてね」
白川も穏やかな笑顔で店を出る。
「はい、ありがとうございました」
星歌は笑顔で送り出すが、内心では、今年になって緒方に会えてないことを寂しく思っている。取材か…やっぱり忙しいんだな…と緒方を遠い存在に感じていた。