• テキストサイズ

白と黒のハーモニー【ヒカルの碁・緒方精次】

第3章 女子高生であることの葛藤


 先週まで1つに束ねられていた星歌の髪があご下で切り揃えられているのに、緒方は気づいた。短い髪も似合うなと、視線が一瞬留まる。星歌は「いらっしゃいませ」と明るく言い、慣れた手つきでコーヒーを準備している。
 年配の棋士たちがテーブルで、コーヒーを運ぶ星歌に声をかける。
「なんで髪切ったの?失恋?星歌ちゃんを振るなんて見る目がないね」
「大丈夫、もっといい男がいるよ!」
「オレは星歌ちゃんならどんな髪型でもOK!いつでも付き合ってあげるよ」
 星歌の意見を無視して軽口が続く。
「そんなんじゃないですよ、少し気分を変えたくて」
 星歌は笑顔であしらっている。
 何度か会話を交わすうちに、緒方は星歌の表情の微妙な変化を見分けられるようになっていた。今の星歌は一見すると笑顔だが、眉間にかすかなシワが寄り、唇の端は一瞬引きつっていた。緒方はそれを見逃さない。愛想はいいが意外と顔に出るな…と、星歌のイライラの片鱗に口元が緩む。
 テーブルにコーヒーを並べ「ごゆっくりどうぞ」と穏やかに言うと、すぐにカウンターに戻る。星歌のなめらかな所作は今までどおりだった。
 緒方は手の空いた星歌にアイスコーヒーを注文した。アイスコーヒーができるまでの間には、あの働きぶりに文学好きの優等生でもジジイどもの軽口にイラついて、普通の女子高生のような部分があるのだなとぼんやりと考えていた。
 年配の棋士が1人、退店時に言った。
「短い髪もかわいいぞ」
「ありがとうございます」
 微笑む星歌の目元にわずかに苛立ちが見えるようで緒方は、ジジイどもうるせえなと内心で笑う。アイツらのせいで髪型を褒めることもできないと残念な気もしたが、10以上年下の女子高生に髪型の話をしても、オレも嫌がられるだけか…と自嘲する。
 やがて先ほどの棋士たちが全て帰り、客は緒方だけになった。
「髪を切ると失恋って、21世紀でも普通ですか?」
 星歌が突然、緒方に聞いてきた。
「さあな。あの先生方の世代だと普通なのかもな」
「髪を切っただけで、あんなに騒がれるのはちょっと…」
「若い子と話せて嬉しいんだろ」
 緒方がそう言うと星歌は大きくため息をついた。
/ 143ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp