第19章 棋院のクリスマスイベント
12月上旬の土曜日、日本棋院のロビーには初冬の柔らかな陽光が差し込んでいる。若手棋士主催の囲碁イベントが開催されており、いつもとは違う賑やかな雰囲気が漂っていた。
緒方は出版社との打ち合わせを終え、ロビーに足を踏み入れる。
イベントの様子をチラリと見て、芦原が仕切っているのか…?アイツがリーダーで大丈夫かよ…と、緒方は不安を感じる。だが、星歌がイベントの手伝いに駆りだされているのを見つけ、だったら大丈夫だな、と安心する。星歌はカフェのバイトの時間のはずだが、人手不足で助っ人として呼ばれたらしい。エプロン姿の星歌が、資料を整理しながら院生たちに笑顔で指示を出す姿に、やはり有能だなと、緒方の胸があたたまる。
ロビーでは、芦原が星歌に親しげに話しかける。
「星歌ちゃん、ここの配置、完璧!」
「志水さん、めっちゃ助かります」
「芦原さんじゃなくて、志水さんがリーダーでよかったのに」
他の棋士や院生たちも笑顔で絡む。
「お役に立てて何よりです」
星歌はいつものように穏やかな笑顔で返す。あの笑顔、いつも通りだなと、緒方は笑みを浮かべるが、芦原や院生たちとのやり取りを見て、やはり、こういう年の近い奴らの方が志水くんには合っているのか?と、胸にチクリとした何かが刺さる感覚を覚える。そして、オレは囲碁棋士だぞ、これは恋愛感情ではない…と、自身を戒めもする。
星歌が緒方に気づき、手を振りながら声をかけた。
「緒方先生、こんにちは! イベント、盛り上がってます!」
弾んだ声が緒方の心を瞬時に明るくする。
「ああ、頑張っているな」
緒方はクールに返す。この子が幸せそうに笑っていればそれでいい、そう思いつつ、彼女の近くに芦原や院生がいるのを見るのは少しつらいな…緒方はそんな気持ちでいっぱいだった。