第18章 噂の真相
緒方は対局には勝利したが、真柴による噂や白川の忠告が頭を離れず、気分は重い。コーヒーでも飲みに行って気分転換するか、と思うが、志水くんとどんなふうに接すればいいんだ…と迷いが生ずる。星歌の笑顔を思うと胸は高鳴る。だがバーでの葛藤を思いだし、ただコーヒーを飲みに行くだけだ、ただの息抜きだと自分に言い聞かせる。
ガラス扉を押し開けて店内に入ると、一柳棋聖がレジ前で星歌と話しているのが目に入る。どうしてこのタイミングでこの2人を…自分の間の悪さを苦々しく思う。
星歌はいつもの笑顔で緒方に「いらっしゃいませ」と声をかける。
「おっと、バイトの邪魔しちゃいかんな。じゃ、またな、星歌」
一柳はにこやかに言い、星歌の肩に軽く手を触れる。星歌は嫌がる様子もなく、笑顔で「はい、また!」と返す。
それを見て緒方の胸がズキリと痛む。いつものあの子なら、あんなふうに触れられたら嫌がるだろ?一柳先生とは、あんな親しげに…?その疑問とともに、真柴の言葉が頭を駆け巡る。まさか噂は本当だったのか…?と、愕然とする。いや、志水くんはそんな子ではない…。チケット代を自分で払うと言った自立心やインスタントコーヒーのささやかな贈りものを思いだして即座に否定するが、胸が苦しくなる。
「お待たせしました」
星歌はいつものピュアな笑顔で緒方に近づく。だが、緒方は一柳が去ったドアから目を離せずにいた。あの親しげな感じ…ただの知り合いじゃないのか? と、葛藤が再燃する。オレは囲碁棋士だ、こんなことで動揺するな…と、自分に言い聞かせるが、星歌の笑顔の真意に疑念が湧くことを抑えきれない。
緒方は注文を済ますと、カウンターに視線を落とす。
「はい、すぐお持ちします」
星歌が弾んだ声で返すが、緒方の心は複雑な感情で乱れていた。