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白と黒のハーモニー【ヒカルの碁・緒方精次】

第16章 彼女からの誘い


 日本棋院内のカフェ。窓の外では冷たい雨が降っている。緒方はカウンターの端でコーヒーを飲みながら、忙しく動き回る星歌の仕事ぶりを盗み見ている。星歌の笑顔での接客に、文豪の自筆展の記憶が蘇る。
「これを漱石が? 芥川が?」
 新宿の展示会場で、星歌が漱石の原稿や芥川の書を前に目を輝かせていた。
「今読んでる本がこうやって書かれてたんだ…感動ですね!」
 弾んだ声で話していた姿が目に浮かぶ。
 展示後のカフェでは、星歌の以前のバイトの話を聞くことができた。星歌がこの店で雇われることになった決め手のバイト経験、それはニューヨークでのこと。英語で接客していたそうで、星歌の英語力は以前に棋院の売店で見てはいたが、やはり大したものだと緒方は感心した。
 緒方が思い出に浸っていると、不機嫌そうな真柴がカフェに入ってくる。
「あのさ…、どうして連絡くれねえの?」
「えっと、何か約束してましたか?」
 星歌は一瞬だけ困惑したような表情を出しつつも、サラッと返す。真柴の顔には怒りが感じられるが、客が多く星歌が忙しく動き回るため、まともに話す時間がない。星歌が注文のカプチーノを置いたタイミングで、真柴は嫌味を言う。
「キミ、そんなんじゃモテないよ? 女の子はかわいげがなくちゃね。誘われたら素直にごちそうしてもらうくらいじゃないとさ。せっかくの高校生活、学校とバイトだけで終わっちゃうよ?」
「学校とバイトだけで十分ですよ」
 星歌は穏やかだが意志の強さを感じる声で返し、すぐに別の客の注文に取りかかる。だが、目元の険しさを隠しきれていないことに緒方は気づく。志水くん、相当イラついているぞ…。彼女は奢られたいタイプではないからな、と自分のチケット代は自分で払いたいと言った星歌の姿を思いだす。真柴は奢ることで優位に立ちたいタイプなんだろうが、志水くんとは釣り合わねえよと、内心で笑う。
 やがて真柴は、乱暴に小銭を置いて店を出ていった。星歌はカウンターを拭くが、目元には疲れが浮かんでいる。真柴のせいで気分を悪くしただろう…と、緒方の心に不快感が広まっていた。
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