第15章 内緒の関係
緒方と白川がカウンターの端で談笑を続けていると、見慣れない客が現れた。アイツは、アキラと同期の初段だな…と緒方は思いだす。星歌はいつも通り「いらっしゃいませ」と穏やかな笑顔で迎えている。
「どうも」
いささか横柄な態度を見せ、彼は緒方と白川からは少し離れたカウンター席に座る。彼はメニューをチラリと見てからカプチーノを注文した。
星歌がカプチーノを置き、「ごゆっくりどうぞ」と声を掛けると、彼が言葉を発した。
「オレのこと知ってる?」
「すみません、存じ上げませんので教えていただけますか?」
星歌は丁寧に答える。
「オレは真柴。真柴充」
「真柴先生ですね、わかりました、ありがとうございます」
先生と言われて、真柴は機嫌がよくなったようにも見える。
「キミ、いくつ?」
「17歳です、高2です」
「オレは今のキミの年でプロになったんだよ、あの塔矢アキラと一緒にね」
「お強いんですね」
星歌の言葉に真柴は満更でもない様子でニヤリと笑う。アキラの足元にも及ばねえくせに、よく言うよ…と、緒方は真柴の自慢に内心で呆れている。
「ねえキミ、バイト終わりに食事でもどう? 近くにいい店知ってるよ」
真柴がストレートに星歌を誘う。
「えっと、テスト前なんで早く帰らないといけなくて…」
「そっか、高校生は大変だよね。オレ、プロ棋士だからさ、テスト勉強とは無縁なわけ」
誘いを断られたからなのか、真柴はマウントを重ねる。その後すぐ、他の客も来店して星歌が忙しくなったため、2人の会話はそこで途切れたままだ。真柴は静かにカプチーノを飲み終える。
「じゃあ、都合のいいときここに連絡してよ」
真柴はメモに連絡先を書いて星歌に渡し、軽い足取りで退店した。星歌は真柴のカップを片付け、カウンターの裏にメモをそっと捨てる。
「捨てちゃうんだ」
白川が軽く笑う。
「え、だって…」
星歌は苦笑いをしている。
緒方はそんな星歌を見て、連絡先を交換している自分は彼女にとって少し特別な立場であるような気がして、胸が高鳴っていた。