第15章 内緒の関係
緒方と白川が連れ立ってカフェに入り、カウンターの端に並んで座る。
「いらっしゃいませ」
いつものようにエプロン姿の星歌が笑顔で迎える。
注文を済ますと白川が口を開く。
「志水くん、ゴッホ好きって言ってたよね?上野で印象派展やってるよ」
「はい、もう行きました!ゴッホもモネもルノアールも素晴らしかったです!」
星歌は目を輝かせて答える。
「そっか、同級生と?」
「…いえ、同級生ではないです」
白川の問いに星歌は一瞬の戸惑いを見せるが、冷静に返す。
「もしかして、彼氏?」
「いえ!ちょっとした知り合いです」
少し頬を赤らめて否定する星歌を見て、この子のごまかしかたが愛らしいな…と緒方は内心で思い、軽く笑みが浮かぶ。
「まさか!芦原くん?」
「え…違いますよ…」
今までのトーンとは異なり、星歌は苦笑いをする。
「そんな反応は、芦原くんがかわいそうだな」
「芦原に話したら泣くかもな」
軽く笑う白川に追い打ちを掛けるよう、緒方が言う。
「緒方先生、それはちょっと困ります」
星歌が頬を膨らませて抗議する様子に、緒方の胸中はあたたかくなる。一緒に出かけたのはオレだしな、芦原に話せるはずもないよな、と内心で思う。棋院ではオレと出かけたことは内緒で、「緒方先生」って呼ぶんだな…と、星歌の気遣いに少し安心しつつも、内緒にしなきゃいけないような関係でもないはずだが…と複雑な気持ちになる。
「そういえば緒方、いつなら飲みに行けるんだよ?」
「ああ、そうだったな」
「全然オレに興味なさそうだな?」
「オレがお前に興味津々だったら、ちょっとまずいだろ?」
「それもそうだな」
同期の棋士2人は、スケジュールを確認して飲みに行く約束を交わしている。ときどき2人で飲みに行くということを、もう数年間続けている。緒方にとって白川は、棋士の中で1番信頼できる相手であった。