第2章 増していく存在感
緒方は今日もカフェを訪れる。今のところ客足はまばらだ。
星歌はカウンター内の棚を整理しつつ、怪訝な顔で首を傾げている。マスターの在庫管理がずさんなのか、同じ種類の豆の袋や備品がいくつもある。それらの横にある色鮮やかなクッキー缶には伝票が無造作に詰め込まれ、星歌は1枚ずつ内容をチェックする。
「マスター、これは来週中までなのでお願いします。これは今月中です」
星歌は2枚の請求書をマスターに手渡してから残りの伝票をクリップでまとめて、柔らかな声で言う。
「在庫の一覧表を作ってもいいですか?表があれば私でも分かりやすいので…」
マスターは奥でコーヒーを淹れ、黙って頷く。星歌は棚の整理を終えると、ノートパソコンを開いた。
星歌の指がキーボードを軽やかに叩き、マウスをなめからに動かす。ときどき棚や冷蔵庫の覗き、手際よく表を作り、プリントアウトした。その表をカウンター内の冷蔵庫に貼り、伝票入りのクッキー缶に手を伸ばす。それに伴い、星歌はノートパソコンのファイルをチェックしているようだった。
「マスター、伝票はこのExcelに入力しますか?」
星歌が尋ねると、マスターは先ほどと同じように頷いた。
緒方はカウンターの端に座り、バイトってこんなことまでするか…?と考えている。帳簿を整理する高校生…しっかりしすぎだろ…と、星歌の働きぶりに感心する。ノートパソコンを見つめる真剣な表情から星歌の集中力が窺える。
店内では年配の棋士が数人、テーブルで談笑している。星歌がカウンターから「おかわりいかがですか?」と声をかけると、棋士の1人が「頼むよ」と答える。星歌は「ありがとうございます」と笑顔で返すとすぐにカップの準備を始め、マスターが淹れたコーヒーを注ぐ。トレイにコーヒーを載せてテーブルまで運び、穏やかな笑顔を見せたあとには、再び真剣な表情でノートパソコンへと向かう。その切り替えの潔さに、緒方の視線がほんの一瞬、星歌に留まった。
緒方はグラスを置き、ジャケットを手に取る。星歌の姿が頭の片隅にかすかに残っている。ガラス扉を押し開けると、厳しい残暑の空気がまとわりついてきた。