第11章 運命的な偶然
「そうか…。高校生で一人暮らしは大変じゃないか?」
「最初は戸惑うことも多かったですけど、だいぶ慣れました。1人で好き勝手できて気楽な部分も多いです」
クールに尋ねる緒方に、星歌が穏やかに答える。
「それにしても、先生とこんなに近所だったなんて知りませんでした。びっくりですね」
「オレは電車にあまり乗らないからな。車ばかりだから、会うことがなかったな」
「本当に、こんなところで会えるなんて新鮮ですね!先生のおうちは駅の方ですか?」
「ああ、駅前のマンションだ」
「私、駅前のスーパーよく行きますよ」
「じゃあ、また会うかもな」
「先生もあのスーパー行くんですか?」
「たまにな」
「なんか不思議な感じしますね。先生のスーパーでのお買い物姿、見てみたいです」
星歌の笑顔に、緒方の胸が一瞬ドキリと高鳴る。それを隠すように緒方は言う。
「もう遅い時間だから、気をつけて帰れよ」
「もう家ですよ、大丈夫です!」
「それもそうだな」
緒方と星歌は顔を見合わせて笑う。
「それじゃ、おやすみなさい。先生もお気をつけて」
「ああ、おやすみ」
星歌は緒方にお辞儀をして、エントランスへと足を運ぶ。緒方は、星歌がオートロックの向こうに消えるのを見届け、再び歩き始めた。
あの子がこんなに近くに住んでいるとはな…。ただの偶然に、緒方の口元にうっすらと笑みが浮かぶ。だが、すぐに、別に喜ぶようなことじゃないよな…何をオレは浮かれているんだ…?とも思う。そして、あの子と家が近いことも、あの子が一人暮らしだということも芦原には知られたくないな…という感情も湧いてきている。まァ、当分は2人の秘密だな…緒方はそう考えていた。
夜風は冷たく、街並みの季節を少しずつ進めているが、緒方の心はあたたかな気持ちで満たされていた。