第11章 運命的な偶然
土曜日の夜、街灯に照らされた銀杏並木が風に揺れる様子を眺めながら緒方が歩く。この辺を歩くのは久しぶりだと思いながら足を進めている。ふと視線が、向かいから歩いてくる制服姿の星歌を捉える。こんなところで会うのか…と驚きを覚えつつ緒方は軽く声をかけた。
「こんな時間にどうしたんだ?」
「あ、緒方先生! こんばんは」
星歌は驚きつつもピュアな笑顔を見せる。
「オープンキャンパスの帰りなんですけど、道に迷ったのと乗り換えが難しくて遅くなりました。先生はどうしてこんなところに?」
「そこの奥の碁会所のオーナーが昔お世話になった人で、挨拶がてらちょっと打ってきた。家は近くだから、今日は歩いている」
「碁会所! 私、散歩して迷子になったとき見ました! なんか雰囲気あるところでしたね。でも、もう二度とたどり着けない気がします」
苦笑いして星歌は答える。
迷子になって見つけた碁会所に二度とたどり着けそうにない…この子らしいな…と緒方は、星歌が学校の家庭科室へ1人で行けないという方向音痴のエピソードを思いだす。
「碁会所、そこの道入って割とすぐだぞ?」
緒方は軽く笑いながら、茶化すように言う。
「住宅街で似たような家ばっかりだから…。それに夜だったから暗くて道がよく分からなかったんです」
星歌は頬を膨らませつつ笑う。優等生とのギャップがおもしろいなと、緒方の胸にかすかな高揚感が広がる。
「家、この辺か?」
「はい、ここです」
緒方が聞くと、すぐ横のマンションを星歌は指さす。ここはワンルームマンションでは…?と緒方が訝しむと、星歌が察したように言う。
「一人暮らしなんです。両親は仕事でニューヨークにいます」
17歳の女の子が一人暮らしか… と、緒方の胸に驚きと心配が広がる。自分もその頃には一人暮らしだったが、プロ棋士の男と一般的な女子高生を同様に語るわけにはいかない。1人で帰国してでも日本文学を学びたいという星歌の覚悟を見せつけられたような気がしていた。