第9章 制服騒動
星歌は今日もテキパキと動き、カフェでのバイトをこなしている。緒方はカウンターの端に座り、コーヒーを飲みながら盤面を考えている。
年配の棋士がテーブル席で星歌に声をかけた。
「星歌ちゃん、高校の制服で接客したら売上上がって、時給もアップしちゃうんじゃないの?」
「女子高生の制服、いいねぇ! オレ、毎日通っちゃうよ?」
からかいに他の棋士が追随し、笑い声が店内に響く。
「はは、そんなことしませんよ」
星歌は笑顔で返すが、目元に困惑と苛立ちがちらついている。
またジジイどものくだらねえ軽口か、志水くんはこういうの嫌いだろ…と緒方の胸にもかすかな苛立ちが走る。
やがて年配の棋士たちが退店すると、その場はずいぶんと静かになった。
「緒方先生…男の人って、妙に女子高生の制服好きですよね? 芦原先生もこの前、制服見て騒いでましたし…」
星歌が困ったように言った。彼女の声には苛立ちと困惑が混じり、普段の笑顔にかげりが差す。
緒方はカップを手に、やっぱり気にしてたな…と、星歌の表情を読み取る。
「爺さんたちも芦原もうるさいよな。気にするな」
「ですよね…。ニューヨークではこんなことなかったから、びっくりしちゃって」
クールに返す緒方に対して、星歌が苦笑いで答える。
ニューヨークか…だから、こういうのに慣れてないのかと、彼女が帰国子女であることを思いだして緒方は納得する。そして、星歌の気持ちを紛らわせようと軽く笑って言葉を発した。
「アメリカじゃ、制服なんてないもんな」
「そうなんです! 制服、最初は新鮮で、かわいいなとも思ったんですけど…。変な目で見られることも多いんだなって、複雑な気持ちです」
「まァ、芦原は若さでバカやっているだけだ。爺さんたちは放っとけ。志水くんは…そのままでいいだろ」
緒方が柔らかい口調で言うと、星歌の目がパッと輝いた。
「ありがとうございます、緒方先生! なんかホッとします」
緒方の胸に安堵が広がり、それとともにわずかな高揚感が湧く。この笑顔は、オレだから見せているのか?その思いとともに鼓動が早まるが、それを悟られないよう平静を装いつつ、緒方はコーヒーを口元に運んでいた。