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白と黒のハーモニー【ヒカルの碁・緒方精次】

第8章 少しずつあたたまる2人の心


 休日の午後、緒方は日常の買い物を終え、何の気なしに書店に立ち寄った。静かな店内には紙とインクの匂いが漂っている。芥川龍之介、川端康成、太宰治、夏目漱石といった文豪のコーナーが並ぶ中、緒方の頭に星歌の笑顔が浮かぶ。あの子、こういう本好きなんだよな…と、星歌の文学への情熱が脳裏をよぎる。あのピュアな笑顔、なぜか気になる…と、胸にかすかなざわつきが走る。
 緒方は棚の前で足を止め、そういえば小説なんてしばらく読んでないなと考える。オレもあの子みたいに何か読んでみるかと、薄くて読みやすそうな本の中から、芥川龍之介の短編集を手に取る。表紙に軽く触れ、彼女だったらこの本でどんな話をするんだろうと、漠然とした好奇心が芽生える。
 レジで会計を済ませて書店を出ると、初秋の風が頬を撫でる。ジャケットのポケットに文庫本をしまい、次、カフェでこの話をしてみようと考えると、口元に小さく笑みが浮かぶ。

 翌日、棋院内のカフェ。初秋の陽光が窓から差し込んでいる。緒方がガラス扉を押し開け、カウンターの端に座る。Tシャツに店名入りの黒いエプロン姿の星歌が笑顔で迎える。注文を済ませた緒方はポケットから文庫本を取り出す。 
「キミに触発されて、買ってみた」
「芥川! いいですよね! 『羅生門』、人間のエゴとか、めっちゃ考えさせられるんですよ!」
 クールに言う緒方に対して、星歌の目は輝き、情熱的に応じる。
「たまには本も悪くないな」
 緒方が軽く笑う。
「ですよね! 私、『蜘蛛の糸』も好きです。救いと絶望のバランスがいいんですよね!緒方先生は何が好きですか?読んだら感想聞かせてください!」
 星歌の声には熱がこもっている。この笑顔、芦原には見せないんだよな と、緒方の胸にかすかな高揚感が広がっていた。
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