第7章 芦原の些細な気づき
夕方、対局を終えた芦原はいつもより少し緊張した面持ちで、ガラス扉を押し開けてカフェに入った。星歌が「いらっしゃいませ」と明るく挨拶するが、芦原はいつもの「かわいいね」という軽口を封印した。押しが強すぎるという緒方のアドバイスと、昼の談話室でのアキラとの会話を思いだして、芦原は胸に小さな決意を灯している。
「星歌ちゃん、お昼食べそこねちゃったから腹ペコなんだ。軽食のおすすめ、何かある?」
カウンターに座った芦原は、いつもより落ち着いた口調で尋ねる。
「ミックスサンドはどうですか?人気ですよ」
「じゃあ、それで!あと、アイスコーヒーも」
「かしこまりました」
勧められたミックスサンドといつものアイスコーヒーを芦原が注文すると、星歌は慣れた手つきで準備を始めた。調理を担当するのはマスターであり、星歌は皿やペーパーナプキンを素早く用意してサポートする。長年コンビを組み続けているバディのように、2人の息はぴったりだった。星歌ちゃん、バイトに入ったばかりなのにテキパキしてるんだよな…と芦原は感心しつつ、緒方さんは星歌ちゃんみたいに仕事ができる子のこと好きそうだな…とも思う。緒方さん、彼女はいないって本当かな…。前に、彼女がいるって噂があったけど別れちゃったのかな…。まさか、星歌ちゃんのせいで…?とモヤモヤしてしまう。
星歌がミックスサンドとアイスコーヒーを運び、「ごゆっくりどうぞ」と言う。
「ありがと! めっちゃうまそう!」
芦原は明るく返すが、過度な軽口は抑えている。
緒方さんは関係ない!星歌ちゃんと緒方さんは両片思いかもしれないけれど、オレにもチャンスはあるよな…。まだ2人が付き合ってないならオレだって!もっと仲良くなって星歌ちゃんに笑ってもらいたいと、芦原の心に小さな目標が芽生えていた。