第33章 一柳棋聖からの公認
対局中の昼休憩に緒方は、星歌の伯父である一柳棋聖に、意を決して声をかける。
「一柳先生、お話があります。お時間よろしいでしょうか」
クールな口調にわずかな緊張が混じる。一柳と話していた棋士は緒方と星歌の噂を耳にしたことがあるのか、驚いたような顔をして緒方を見ている。一柳はいつもの明るさを崩してはいない。姪が若手棋士と噂になっている…なんて誰も言うことなどできず、何も知らないようだ。
「緒方くんから話しかけてくるなんて珍しいね? 碁の話かい?」
「いえ、碁ではありません」
「そうか。まあ昼飯を食いながらだな。あの料理屋なら個室があるから、行こう」
一柳はさっさと歩き出す。道中で一柳は「今日の対局、いい調子なんだよ」とか「塔矢さん最近どう?」と、軽快に話し続ける。緒方は、一柳先生の軽いノリ…。どう切り出せばいいんだ …?と、内心でソワソワとして落ち着かない。だが、機嫌が良さそうなのは幸いかもしれない、と緒方は思っていた。
個室に通され、しばらくすると注文した料理が運ばれてくる。
「それで緒方くん、一体何の話だい?」
一柳が箸を手に聞いてくる。
「星歌さんとお付き合いさせていただければ、と思っています」
覚悟を決めた緒方は、一柳と目を合わせてはっきりと言う。
一柳は箸を止め、目を丸くする。
「お付き合い…?星歌と?」
「はい」
「誰が?」
「私です」
「星歌は高校生だぞ? 緒方くん、いくつ?」
「28です」
緒方は落ち着いて答える
「11歳差か…」
一柳は呟き、神妙な顔をする。
「緒方くんなら、もっと年の近いいい女がいるだろ?」
探るように言う。
「年齢は関係ありません。私は星歌さんがいいと思っています」
一柳は箸を置き、しばらく考える。
その間がとても長く感じられ、緒方の緊張が高まっていた。