第30章 大雪のバレンタインデー
2月14日、バレンタイン当日。全国的に予報を上回る冷え込みが続き、昼過ぎから雪が降り始めた。星歌が学校から帰宅する頃には道路が白く覆われるほどの雪が積もっていた。
星歌は窓の外を眺めながら、緒方さん、大丈夫かな…と心配している。それと同時に、遅くても会ってくれる…と、胸をあたたかくしている。
緒方は関西棋院の視察を終え、新大阪駅のホームで新幹線を待つ。雪の影響でダイヤが大幅に乱れ、予定より遅くなりそうだ…と苛立ちつつスマホを取り出す。東京の雪は大丈夫だろうか…と、星歌の笑顔が浮かぶ。年の差や棋士の立場、2人についての噂が再び葛藤を呼び起こすが、少しの時間だ、問題はない…と自分を納得させる。
「雪で新幹線が遅れている。21時半頃になるかもしれない」
星歌にメッセージを送った。
新幹線は予定より1時間半遅れで新横浜に到着。時計は21時を回り、あと1時間もせず、22時過ぎには家に着くはずだ と、緒方は再び星歌にメッセージを送る。
「22時を過ぎそうだ。気をつけてな」
しかし、東京に着くと在来線のダイヤも大きく乱れている。志水くん、こんな雪の中、無理して来るなよ… と心配が募る。
「雪で遅延している。帰りが遅くなるし危ないから、日を改めた方がいいか?」
提案するメッセージを送ると、すぐに星歌から返信が来る。
「渡すだけなので、今日がいいです! 大丈夫、気をつけます!」
今日がいい…。こんな雪でも、オレにそこまで…と、星歌の真っ直ぐな気持ちに胸が高鳴る。たが即座に、ダメだ、こんな気持ち…。十段戦に集中しろ、と自分を戒める。
しばらくして、緒方の乗る電車が徐行運転になる。あと少しで着くのに…。これは、かなり遅くなりそうだ…。そう思った緒方は再びメッセージを送る。
「電車がなかなか進まず、駅への到着が23時を過ぎると思う。無理するなよ」
だが、今までとは異なり、今回のメッセージだけ既読が付かない。どうした?充電切れか…?それとも雪で何かあったのか…?不安が緒方の胸を締めつけている。