第26章 2人を引き裂く噂
緒方は近所のスーパーで、飲み物や切れていた調味料など、ちょっとした買い物を済ませる。出口の自動ドアの前で、偶然にも星歌と鉢合わせた。
「緒方さん、こんばんは! 本当にスーパーで買い物するんですね!」
エコバッグを持った星歌が笑顔で明るく話しかけてくる、
「ああ、たまにはな」
緒方はたじろぐがクールに返す。この笑顔、いつも通りだな…と心があたたかくなると同時に、お互いのためにも2人で会うのをやめるべきだという決意も固まる。
「遅い時間だから、家まで送るよ」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
2人でスーパーを後にして、街灯が冷たく光る中を並んで歩く。星歌は「今日も寒いですね」「雪が降るかもしれませんよ」など、しきりに話しかけてくるが、緒方は上の空だ。少し歩いて人が少なくなったところで、緒方は意を決して切り出す。
「…オレとキミのことが、妙な噂になっている」
「知ってます、カフェで聞きました」
星歌は静かに答える。もう届いていたのか…と、緒方の胸が苦しくなる。志水くんがこんな目に…オレのせいだ…。
「キミを傷つけたくない。だから…2人で会うのはやめよう」
緒方は低く言う。星歌は目を伏せて答えない。緒方もそれ以上言葉を出せず、2人は無言のまま歩き続ける。数分後、2人は星歌のマンションに到着した。
「私は噂を気にしませんけど、緒方さんは棋士ですもんね、気になりますよね。ごめんなさい、私のせいで…」
「キミのせいではない…」
「送ってくれてありがとうございました。おやすみなさい」
星歌は下を向いたまま静かに言い、オートロックの向こうへ消える。前は笑顔で手を振ってくれたのにな…。今まで一緒に出かけたことを思いだして、緒方の胸が締めつけられる。
緒方にはこれが、永遠の別れのように思えていた。