君の素肌に触れさせて【チェンソーマン短編集 R18】
第1章 高校の先輩と満員電車で…【吉田ヒロフミ】
"…はぁ……ついてない…"
小さくため息をつく。
朝の通勤通学ラッシュの時間帯に、車両トラブルで数十分の遅れ。
やっと動き出したはいいけれど、身動きも取れないほどの満員電車に私はただジッと耐えていた。
学校まではあとひと駅。ホーム側のドアが開き、乗ってきた人々の圧に押されてよろめいた身体を、グイと力強い腕に支えられた。
「…大丈夫?」
聞き覚えのある声にドキッとしながら顔を上げる。
『……ぁ、吉田先輩…』
「おはよ。スゲー混んでんね」
そこには同じ高校に通う吉田ヒロフミ先輩が、困ったように眉を下げていた。
『お、おはようございます』
「…なんか事故でもあったの?」
『何本か前の電車の車両点検で遅れたみたいです。少し走っては止まったりで、やっとここまで来ました』
「…この駅と次の駅の間、ただでさえ離れてんのに…何分かかんだろーね。今日は遅刻決定かな…」
『そうですね…』
笑顔が爽やかな吉田先輩はウチの学校の女子生徒の間で密かに人気があった。後輩の私も入学以来一生懸命挨拶などをして近づき、最近やっと名前を覚えてもらえたところだった。
それが今、同じ困難を共有していることでこんな風に会話ができているなんて。
"…ついてないどころかめちゃくちゃラッキーじゃん♪"
私の気分は一気にアガった。
車両のすみのほうに立っている私が潰されないよう、さりげなく壁に片手をついて囲ってくれている先輩の気遣いに、胸がキュンとしてしまう。
"…何か、彼女になったみたい…"
そんな妄想に思わずニヤけてしまいそうになって、私は下を向いた。
「どうした?体調悪い?」
『…ぁ、いえ、何でもありません…』
「少し顔赤いぞ…」
『…さっきから、電車の中が暑くて』
「確かにな。…俺も汗かいてきた」
吉田先輩はそう言うと、いつも首元まで閉じている学ランの前ボタンを片手で外した。
「…あっちぃ」
ワイシャツの1番上のボタンも外し、指を引っ掛けて小さくパタパタと風を入れる。
間近で感じる先輩の香り。微かに汗ばんだ首筋が色っぽくて、私の目は釘付けになってしまった。