第8章 煉獄家
久しぶりの母屋はやはり緊張する
しばらく会っていない父上の事が気になる
「お待たせしました、座ってください!」
千寿郎に促され座卓を囲む
千寿郎が口火を切る
「兄上にまさかいい人がいたとは知らず、こうして紹介していただけて嬉しいです!結納などのご相談でいらしたのですか?」
ニコニコとしながら聞いてくる
“!?!?そうか…千寿郎にはそう見えたか!”
確かに歳を考えれば、それが普通か
「ハハハ!千寿郎すまない!俺がまだ想いを伝えられずにいてゆあ とは恋仲ですらないのだ!」
気持ちを伝えようと思っていた矢先
想いを隠す必要はない
“千寿郎に背中を押されたか!”
ゆあ は驚いた顔でチラッと俺を見る
「だが、千寿郎がそのように言ってくれて大変嬉しく思う!千寿郎には苦労をかけているからな…」
父上と二人、苦労も多かろう
だがいつも俺を笑顔で迎えてくれる
千寿郎がいたから今日まで過ごしてこれた
胸がいっぱいになる
千寿郎はというと、顔を真っ赤にして
「兄上!ゆあ さん!勘違いをしてしまい、失礼しました!兄上が隊士の方以外で女性を連れていらしたことがなかったものですから…そのてっきり…」
間違うのも無理はない
して、ゆあ は何と答えてくれるか
不安がないと言えば嘘になる
今この瞬間に全否定されるかもしれない
ましてやきちんと想いを伝えられていない
この状況からすれば…
ゆあ の方を見る
「千寿郎くん、頭をあげて。確かに今は恋仲でもなんでもないけれど、私も杏寿郎さんの事が好きだから!だから千寿郎くんも仲良くしてくれると嬉しいな♪」
千寿郎に笑顔が戻る
“そう言ってくれるか…”
何ともいえない温かな空気が流れる
それから、大学いもを食べた
あまりに俺がたくさん食べるので
ゆあ に咎められながら
楽しい時間は過ぎていった