第31章 新しい時代-其の弐
次の日ーーー
ここかぁ
そこには立派なお屋敷が立っていた
門のところに『鬼殺隊資料館』と書かれていた
「ゆあさんこちらです」
そう呼ばれて中に入る
初めて入る建物なのにどこか懐かしい
「今は誰も住んでいないんですよ。資料館として時々開放していますが」
「そうなんですね…すごく立派ですね…」
「こちらの座布団に座って下さい」
「はい、ありがとうございます」
「早速ですが、これがその浴衣です」
…私のだ…紛れもなく…あの日着ていた…
「それから、これは高祖父がゆあさんに浴衣と共に渡してほしいとの遺言で残してあった手紙です」
「今、開けて読んでもいいですか?」
「もちろんです」
手紙を開くとこう書かれていた
『ゆあ 江
この手紙をきみが読んでいるという事は
俺はもう生きているうちに会えなかったという事だ
だが、それは決して悲しい事ではないと思う
なぜなら俺にはきみが遺してくれた
数々の大切なものがあるからだ
一つ目は、息子の桜寿郎。彼の事は心配しなくていい。立派に育ててみせる
二つ目は、きみと初めて会ったあの日にきみが着ていた浴衣。これはきみを見つけるために大切に受け継いでいく事を約束する
三つ目は、きみが記してくれた鬼殺隊についての記録。みなの生きた証だ
そして最後に、桜の香りがする練り香とゆあがくれた手紙。これはきみを思い出すために最後まで俺が持っていようと思う
ゆあはきっと忘れていた事に罪悪感を感じているだろが、そんな事を思う必要はない
きみはきみの幸せだけを思い生きてほしい
祝言の日に渡すと言った
恋文を渡すのが大分遅くなってすまない
怒っているだろうか
何を書いたらいいのか今でも分からない
ただ、これだけはもう一度、ゆあに伝えたい
好きだ ゆあ
杏寿郎 』
私は人目も憚らず泣いた
そこには私が愛した人が確かにいた
私が生きたもう一つの人生があった
“私もあなたが遺してくれたこの簪を死ぬまで持っているからね”