第13章 時計の針が動く
「じゃあ俺、自分の病室戻ります」
そう言うと竈門少年は出て行った
ゆあを見ると思わず
「目が腫れているぞ!別人だ!」
そう揶揄ってしまった
“せっかくの可愛い顔が…しかし、こんな顔にしてしまったのは俺か…”
「仕方ないです!ずっと泣くの我慢してたんですよ!」
そう言って膨れる顔も可愛いな…
「隣に寝てくれるか?」
そう言うと、ゆあ は布団に入ってきてくれた
「長い長い夢を見ていた」
「術の影響ですか?」
「いや違うな。意識が遠のく時に幼き頃の記憶なんだが…忘れていた事がある」
「いったいどんな事でしょう。聞かせてもらえますか?」
「あれは俺が五つか六つの頃だったように思う。神社で遊んでいた際に木から落ちた事があった」
「うん」
「落ちる瞬間目を閉じて開けたら知らない神社にいた。綺麗な石畳が敷き詰められていて、真新しい社が建っていたんだ」
「うん」
「大抵のことは怖くはなかった俺だが、その時だけは言い知れぬ不安が襲ってきた。ここはどこなんだと…」
…
「不安で泣きそうになっていると、同じ年くらいの少女に話かけられたんだ。「大丈夫?お母さんと逸れたの?」と」
「うん」
「俺は不安で何も話せなかった。けれど少女はそれ以上は何も聞かずに、ただ隣に座っていてくれたんだ」
「うん」
「しばらくして辺りが暗くなってくると、少女は「少し待っていて」と言って祖母を連れて戻ってきた。ご婦人は俺の手を引くと部屋へと案内し、布団に寝かせてくれたんだ」
「うん」
「そうして眠りについてしばらくすると、杏寿郎と名前を呼ばれて起きたんだ。そこには心配した顔の母上と父上がいたんだ」
「そんな事があったんだね…」
「それから…」ゆあ をきつく抱きしめる
「あの時俺のそばにいてくれた少女からゆあ と同じ桜の香りがしていたんだ」