第5章 百合の子(緑谷出久)
「な……何言ってンの?さっき、嫌いって言ったし!」
すると、爆豪くんはチッと舌打ちをした。
「じゃあ、何でデク突き飛ばして逃げなかった?」
「そ、それは、」
「俺が言えんのは、ここまでだ。後は好きにしやがれ」
そう言って、爆豪くんは私に背を向けるとどっかへ歩いて行ってしまった。
何よ。
男子ごときに私の気持ちなんて分かる訳ない。
私の、気持ち……なんて……
そこで、はっと我に返った。
お茶子ちゃん!
そうだ、爆豪くんと暢気に話してる場合じゃない!
きっと、さっきのでお茶子ちゃんに勘違いされた。
私が、緑谷くんと汚い事、してたって。
誤解、解かないと私ホントにもう、お茶子ちゃんの傍になんか居られない。
「……行か、なきゃ……」
私は立ち上がって、もう体力も残っていなかったので寮に向かってとぼとぼと歩き出した。
寮の扉をゆっくり開けると、共同スペースのソファにお茶子ちゃんが腰掛けていた。
「あの、お茶子ちゃん」
私が恐る恐る名前を呼ぶと、お茶子ちゃんは「ん?」といつもの笑顔で私の方を見た。
好きな子の好きな人とあんな事をした罪悪感が半端ない。
胸がズキンと痛んだ。
「あのね、さっきのだけど……」
「うん」
「緑谷くん、きっとどうかしてたんだ……私だって、緑谷くんの事なんか、どうだって、いいし……」
「うん」
お茶子ちゃんは、笑顔で相槌を打ってくれた。
「わ、私、お茶子ちゃんが好きなの!だから、」
「甘井ちゃん、こっち来て」
「?」
言われた通りにお茶子ちゃんの傍に行くと、急に腕をぐいっと引っ張られて、気付いたらお茶子ちゃんに押し倒されていた。
「……お茶子、ちゃん?」
急にこんな事されたら、誰だって多少は驚く。
私だって、驚いた。
けど。
「……やっぱり」
さっきみたいに、胸がドキドキして、どうしようなんて気持ちにならなかった。
「いつか、こうしたら気付いてくれるんやないかって、思ってた」
「……え?」
私を見下ろすお茶子ちゃんの目から、ぽろぽろ涙が零れだした。
「私に、逃げんといて!」
「な、何言ってるの、お茶子ちゃん」
「何で好きな私にこうされてるのに、顔も赤くならんの?焦らんの?そんなん……恋と違うやろ!」