第5章 百合の子(緑谷出久)
「どうしたん?顔真っ赤やで」
「……あ、暑く、て……」
私が何とか誤魔化そうとすると、いつの間にか立ち上がっていた緑谷くんが、私の肩を掴んで耳元で誰にも聞こえないように囁いた。
「甘井さん、何回も言うけど、好きだよ」
「な、なに……」
振り返った瞬間、緑谷くんの顔がもう目の前に来ていた。
キス、される……!
バシン!
私は緑谷くんの頬を思いっきりビンタしていた。
「やめてよ!」
お茶子ちゃんと、爆豪くんが吃驚した顔で見てる。
こんなの……
「汚い事、しないで!最低!緑谷くんなんか、ホンっと嫌い!もう絶対、指一本私に触らないで!」
もう、感情がごっちゃになってしまって、私はその場にいる事も出来ずに寮を飛び出した。
「甘井ちゃん!」
私にはお茶子ちゃんの声は、聞こえなかった。
「はぁっ、はぁっ……」
どれ位走ったか、分からなかった。
体力が尽きてしまって、その場に座り込む。
私……
好きでもない男の子にあんな事されて、もう汚れてしまった。
こんな私じゃお茶子ちゃんとは、もう笑い合えない。
どうしよう。
私これから、どうしよう……?
「おい」
誰かの声が聞こえたのと同時に、私の頭に何かがばさっとかかった。
誰……?
振り向いて視線を上げると、タンクトップ一枚の爆豪くんが立っていて、頭にかかったものは彼の着ていた上着なんだと気づいた。
「ンな格好でうろつくんじゃねぇよ」
自分の格好を思い出して、恥ずかしくなる。
「……ごめん」
私がそう言うと、爆豪くんは後頭部をかきながらとても言いづらそうに口を開いた。
「あー……っだぁ……デク、だけど……」
意外だ。
爆豪くんが、緑谷くんの話をしようとするなんて。
「アイツ……アレだ。あんな風に、なるとか……すっげ、珍しいから」
「……爆豪くん、いつからあそこに居たの……」
「あぁ!?いつでもいいだろ!テメェらが勝手におっぱじめたんだろが!」
……ある意味、被害者ね……
「苦情なら、緑谷くんに言って。私も被害者だから」
「被害者、だぁ?違ぇだろ」
爆豪くんが、急に真面目な顔をした。
「お前、デクの事好きなんだろ」
は?
何言ってんだ、コイツ。