第1章 限定って言われると欲しくなる(ホークス)
「……ん……」
暫く経った頃、すっかり快眠してしまった私はゆるゆると目を覚ました。
視線を上に移すと、私に膝を貸してるその人は、まだ私が目を覚ましたことに気付いてなくて、空を見上げてた。
風に揺れる、ふわふわの髪。
ヘラヘラしてるのに、やたらと希望に満ち溢れた目。
ちょっと、ドキッとしてしまったのは……秘密。
「あ、おはよ」
私の視線に気づいたおにいさんは、へらっと笑う。
「ごめんなさい……寝ちゃった……」
上半身を起こしながら謝ると、急に唇にむにゅっとした感触が……。
「はい、口閉じててね~」
って……あんたが今持ってるそれ、私のリップじゃん……いつの間にポケットから盗ったの……
私の唇に一通りリップを塗り終えると、おにいさんがまた余裕の笑みを浮かべた。
「ん、可愛いね」
と、頭をよしよしされる。
くっそ、なんか……
おにいさんに、うまく乗せられてるような……
やっぱ、悔しい……っ……
「またね、繭莉ちゃん」
そう言うと、地面をトンと軽く蹴っておにいさんは飛んでってしまった。
あれ?
そう言えば……
「私……おにいさんに名前なんか、教えたっけ……?」
そう、独り言を呟いた所で授業開始のチャイムが鳴って私は考えるのを止める事にした。
次の日。
「繭莉ちゃん、今日も可愛いね」
窓際にホークスが現れた!
「おにいさん、めっちゃヒマそうですね……」
私は冷たくあしらった。
そのまた次の日。
「繭莉ちゃん、チョコレートあげる」
購買部にホークスが現れた!
チョコレートを貰った。
おいしいよね、コレ……好感度は、上がらんけど。
そう。
毎日のように、昼休みになると奴はどこからともなく現れる。
そして必ず『またね、繭莉ちゃん』と言って去って行く。
そんなのがもう、一週間続いていた。
……何だ?この状況。
缶コーヒー位箱買いして置いとけば?
そしたら毎日、こんな所に来る必要もな……いよな。
あれ?何で今ちょっと詰まったんだろ。
別に来てもいいよとか、思ってないから。
「……はぁ……」
「繭莉」
机に突っ伏していた私の肩を、麻弥が叩いた。