第4章 Erode(ホークス)
「私には、いつかなんて、ないんです」
頬を涙が伝った。
「私が圭吾を思い出にしちゃったら……忘れちゃったら、圭吾は本当に、死んでしまう……!」
人は、死ぬ事が怖いんじゃない。
忘れられていくのが一番怖いのだという事を、彼女は分かっていた。
「だから、わたしは……っ……」
ぽろぽろと涙を流す繭莉を、気が付けば抱きしめていた。
「や、はなして……」
「ごめん」
何に対するごめんなのか……きっと、彼女の心の隙間に無理矢理入り込もうとした事なのだとホークスは思った。
「利用していいよ、俺の事」
「そんな、むり……」
自分の腕の中でふるふると首を横に振る繭莉が愛しくて、もっと強く抱きしめたかった。
けれど、それをしたら彼女を苦しめるだけだというのもホークスは分かっていた。
ゆっくりと、繭莉を腕から解放する。
「ごめん……君の事が、好きなんだ」
「!……あの、私……っ……」
「いいよ。今の、忘れて」
好きだと言ったのは、未練だ。
あわよくば、優しい彼女の事だから、流されてくれるかもしれないなんて馬鹿な事を思ったのかも知れない。
そんな事、ある訳無いのに。
「そんな顔、させたい訳じゃなかったんだ」
親指で、繭莉の涙を拭ってやる。
「君がいつか、笑ってくれたら、それでいいかな」
自分でも無理をしている、と思いながら笑顔を作った。
「ごめ、なさ……っ……」
「謝んないで。……帰ろっか」
一向に泣き止む様子のない繭莉の手を引いて、墓地を後にした。
せめてこの手の温もりだけでも、出来るだけ覚えておこうと思いながら。
散々打ちのめされても、人には平等に時間が流れる。
仕事も息も食事もしなければ、生きていけない。
立ち止まる時間なんて、誰も与えてはくれない。
生きている限りは。
そうして毎日を生きている内に、また仮免試験の日がやってきた。
「いやぁ、今年も無事に終わりましたねぇ、仮免試験」
「そうスね。よかったよかった……というか目良さん、このコどうします?」
それは、仮免試験が無事終わったという事で開催された打ち上げの場。
新仮免試験応援団長に就任していた亜寿佳が、テーブルに突っ伏して泣いていた。