第2章 ゆめのプロポーズ(轟焦凍)
結婚式のお金は、私が貯金を切り崩して一ノ瀬さんの口座に入れた。
来月、大きな商談が纏まりそうだから口座に入れた分、キャッシュで返してくれるんだって。
お金は戻って来るんだし、いいか。
私は、この間思い切ってキャバ嬢を辞めた。
結婚式が終わったら、一ノ瀬さんと新しいマンションで暮らすことにしたので部屋も引き払った。
専業主婦にでもなって、一ノ瀬さんを支えるのもいいかもな、なんて柄にもない事を思ったから。
何で……
焦凍には、そんな事を思ってあげられなかったんだろう?
「繭莉?」
一ノ瀬さんに呼ばれて、また我に返った。
ああ、もうすぐ挙式が始まるんだった。
「僕の奥さんになってくれて、ありがとう」
「……いえ」
「じゃあ、向こうで待ってる」
そう言って一ノ瀬さんは去って行った。
そして、チャペルの扉が開く。
今日、私は焦凍じゃない人のものになる。
ヴェールダウンは、母親にお願いした。
少し皺の増えた手を見て、苦労かけたんだなぁと思った。
父親と腕を組んで、歩きだす。
バージンロードの向こうで、一ノ瀬さんが微笑んでいた。
けど、幸せだと心から思えなかった。
ドレスの白い色の所為で、世界はまだ色褪せて見えていた。
「では、署名をお願いします」
司会の人の声ではっとなった。
式は、人前式にした。
今目の前にある婚姻届を、式が終わったら区役所に提出しようと一ノ瀬さんと話していた。
「繭莉、書かないと」
ヒソヒソ声で一ノ瀬さんに促されて、私がペンを取った、その時だった。
バァン!
と、チャペルのドアが思い切り開いたのだ。
「え、な、何……!?」
「何だ!?」
私達が戸惑っていると、チャペルにスーツを着た男性達が駆け込んできた。
「一ノ瀬、いたぞ!確保しろ!動くな警察だ!」
「な……!繭莉、行こう!」
一ノ瀬さんに急に手を引かれて走り出す。
「あ!一ノ瀬、待て!外に連絡しろ!回り込め!」
「一ノ瀬外に出るぞ!絶対逃がすな!」
何が起こっているのか、理解が出来ない。
チャペルの外には大階段があって、そこで写真を撮ったら映えるね、なんて一ノ瀬さんと話していた。
「繭莉、早く!」