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たまのケージ【ヒロアカ】

第12章 ゆめのプロポーズ2(相澤消太)


 「早めに、戻って来てね」
 お兄ちゃんがそう言ってくれたので、紗綾に手を振りながら、キャリーケースを引いて歩き始めた。

 歩きながら、感慨に耽った。

 もう、中々この景色も見る事が出来なくなるんだ。

 けど……

 相澤さんとは、これで顔を合わせなくって済む。

 そう思ったら、胸がチクリと痛んだ。

 けれど、その痛みを誤魔化すように首をブンブンと横に振った。

 私……っ……

 紗綾には悪いけど、東京の色に染まらせて貰おう……!

 そう、変な決心をしてお兄ちゃんの所へ行こうと振り返った時だった。

 「……あ……」


 何の偶然なのか、相澤さんが立っていた。

 この2か月、相澤さんとは顔を合わせていなかった。

 彼は、私が持っていたキャリーケースに目を落とした。
 「旅行?」
 「いえ!……私、東京に引っ越すんです!」
 何故か、笑顔で言っている自分がいた。
 
 これで顔を合わせるのが最後になるなら、一番いい顔を相澤さんに見て欲しい。

 そう、思ったからかもしれない。

 「色々……ありがとうございました」
 「いや……俺は特に何もしてない」

 してくれた。

 つらくなったけれど、優しくしてくれた。

 私に、恋という大事な感情を教えてくれた。

 その、思い出だけで私はこれから生きていける。

 「あの、最後にお願いがあるんです」
 私は、相澤さんの前に手を差し出した。

 「握手、して下さい」
 
 本当は少し泣きたくなったけど、精一杯笑顔を作った。

 相澤さんは、一瞬驚いた顔をしたけどすぐにふっと口元を緩めた。

 「……元気で」

 そう言って私の手を握った彼の手は、やっぱり温かかった。

 握手したまま、暫く見つめ合った。

 
 何故か、あの言いようのないつらさは少し、和らいでいた。


 「……じゃあ私、行きます」
 名残惜しいけど手を離して、私は相澤さんに背を向けた。
 「相澤さんも、お元気で!」
 振り返って、自分の中で最高の笑顔を作った。


 涙が、零れないうちに。


 そう思って、私は足早に歩き出した。

 これで、全部全部、思い出に出来る。

 ……頑張ろ……!


 そんな事を、思っていた。

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