第2章 ゆめのプロポーズ(轟焦凍)
4月25日。
今日は私の結婚式。
「では新婦様、こちらで少しお待ちくださいね」
介添えさんにそう言われて、私は白い椅子に白いドレスを着て座っていた。
「……はぁ……私も、結婚かぁ……」
溜息を吐いて、目を閉じる。
そうすると、いつも思い出す。
もう叶わない、ひとつの恋を。
その出会いは、偶然だった。
私は、キャバクラで働いていた。
偶々始めたら、偶々そこそこ売れてしまって辞めるに辞められず、ずるずると続けていた。
特にしたい事もなかったし、お金もそこそこ稼げたので男の人の幻想の中に生きるのもいいんじゃないか。
そう、思っていた。
ある日の、pm4:30。
「はぁっ、いい天気だなぁ……」
あの頃の私のたまの楽しみは、出勤前に公園のベンチに腰掛けてボーっと行き過ぎる人達を見る事だった。
昼間の人達は、誰も彼もキラキラしているように見えた。
夜の人間が仄暗いわけじゃないけれど、何だか憧れてしまう。
私も、昼の世界に生きたらキラキラ出来るんだろうか。
まぁ、そんな日は訪れないと思うけれど。
そう思いながら、視線を移す。
この公園にはたまに、キッチンカーが何台か出ていて、そこのドーナツが美味しいとか何とか。
「……買って、みようかな……」
すると、そのドーナツ販売のキッチンカーの前に、高校生のグループがキャッキャしているのが見えた。
丁度時刻的に、この時間は高校生達の放課後と被る。
あの制服は確か、雄英だろうか。
……それにしても、キラキラ、しちゃって……
私は、ドーナツを買おうと思ってキッチンカーの方へ向かった。
「すいませぇん、今日、もう全部売り切れちゃって」
「え、そうなんですか……残念」
「また、お待ちしてます!」
ドーナツは、売り切れていた。
「……はぁ……」
私は、溜息を吐いた。
私には、ドーナツを手に入れる自由すら存在しないのだろうか……。
偶々だというのについ、ネガティブ感情になってしまう。
「あの、」
突然、後ろから誰かに話しかけられた。
「え」
「これ」
そう、言われて差し出されたのは、例のドーナツだった。
そんな事をしてくれた優しい人は、雄英の制服に身を包んでいた。