第10章 男女問題はいつも面倒だ(爆豪勝己)
こっちは8時間以上かけてここまで来てんだ!
そう簡単に逃がしてたまっかよ!
雪道に足を取られないように、追いかける。
追われる繭莉もまた、足を滑らせないように走るもんだから本人も必死に走ってはいるが、追いつかれるのも時間の問題だ。
「きゃぁっ……!」
案の定足を滑らせた繭莉が、ぐらりとよろける。
「あっぶね……!」
漸く追いついた勝己は、すんでの所でその華奢な身体を受け止めた。
「「…………」」
少しの間、沈黙が流れた。
「……先輩……何で、ここに……?旅行……?」
冗談なのか何なのか、まるで見当違いな事を言う繭莉。
「違ぇわ!バカかてめーは!」
勝己を見上げる瞳に、どんどん涙が溜まっていく。
「何で、相澤先生に嘘吐いた」
「……ごめんなさい……だって、私なんか……」
っあー……もう……!
「質問の答えになってねんだよ!あと私なんかとかぐずぐず言うな!イライラすっから!」
つい、いつもの調子で捲し立ててしまう。
すると、腕の中に納まっていた繭莉の身体がビクっと固まった。
「ご、ごめんなさい……」
悪くも無いのに謝られて、こんな事を言いたかった訳ではないと、我に返る。
「……悪ぃ、違ぇわ……俺、お前に聞きたかったんだ」
「え……?」
次の一言が、緊張する。
たった一言、聞くだけなのに……らしくねぇとは、思う。
少し震える手を隠す為に、繭莉をぎゅっと抱きしめた。
「お前、俺の事どう思っとんだ?」
顔を赤く染めて、彼女は俯いた。
答えを聞くのが、正直怖かった。
でも、早く言って欲しいような……複雑だった。
「あの……」
控えめに切り出した彼女の目から涙が零れた。
「私なんかが、誰かに好かれたり、好きになっちゃいけないような気がして……だから、全部思い出にして、逃げたかったんです」
「逃げんなよ、捕まえんの大変だから」
抱きしめる手に力を込めると、まるでそれに応えるように上着の裾をきゅっと掴まれた。
「ごめんなさい……好きです、先輩……」
消え入りそうな声で、繭莉が言った。