第10章 男女問題はいつも面倒だ(爆豪勝己)
「私、ヒーロー辞めた方がいいんですかね……?」
繭莉の問いに、勝己は答える事が出来ずにいた。
本当は、辞めてしまえと言いたかった。
そんで一生、俺にでも護られときゃいいとも言いたかった。
だけど、何故かそんな勢いで言えそうな事が一言も言えずに黙り込んでしまう。
2人の間に沈黙が流れた。
「折角ヒーローになったのに、勿体無くないか?」
後ろから突然声が聞こえて振り返ると、そこには何故か相澤が立っていた。
「あ、相澤さん……!」
繭莉の呼び方に危機感を覚えてしまった勝己。
相澤さん、だぁ?
こないだまで、イレイザー・ヘッドだっただろ。
この一週間でこいつらに何があった?
勝己の心配をよそに、2人は何やら親密そうな会話を繰り広げる。
「すみません、私が今朝あんな事言ったから、ご足労を……」
「いや、来たくなかったら来てない」
「……ありがとう、ございます……」
繭莉が笑った。
いとも簡単に彼女から普段見た事もないような笑顔を引き出した相澤が、若干憎くなる。
「何か、買ってくよ」
「前に並んでるの、今週の新作らしいですよ」
そんなやり取りをしながら、どこか楽しそうにパンを選ぶ2人。
それは傍から見たらもう、少し年の離れたカップルにしか見えない……と思う程距離が近かった。
人というものは一週間そこらでこんなに距離が縮まるもんだっただろうか。
そこら辺は、2人にしか分からないのだが。
ほのぼのした2人を見る勝己の中に、焦燥感だけが募っていく。
そんな事は一切知らずに、買い物を終えた相澤が繭莉の頭にポンと手を置いてから、店を出て行った。
それを見送りながら頭を押さえて、嬉しそうに微笑む繭莉。
勝己はもう、限界だった。
これ以上この2人の仲が進展するのを、許せそうにない。
相澤が、繭莉に気があるのは確かだ。同じ男なので何となく分かる。
くだらない嫉妬が、勝己を動かした。
繭莉の腕を掴むと、外から死角になっていて見えないカウンターの中に引きずり込む。
「あの、先輩?」
突然の事に、目を丸くする繭莉。
どうせ、他の男に盗られるんなら俺が先に奪ってやる。
そんな醜い感情が渦巻いていた。