第7章 夢中(相澤消太)
「えー!相澤先生、彼女いたの!?」
この子、何にも見えない……すっごく、透明……
それにしても、この位の歳の女の子って、そういう話題、好きよね……
私の後ろに立っていた消太が、溜息を吐いた。
「だから、エリちゃんの髪を切ってもらうって言ったろ。何度も言わせるな」
消太がそう言うと、女の子達は「つまんなぁい」と言って、ソファに顔を埋めた。
なぁんだ、こんな会話するなんて、意外と生徒と仲良しなのね。
もっと、ビビり倒されてるのかと思った。
と、思っていると、さっきの緑谷くんが小さな女の子を連れて戻ってきた。
「あ、相澤せんせ」
その子はとてとてと消太の所に駆け寄ると、足元にひしっと抱きついた。
なに、すっごい可愛い……!
何この子、お姉さんキュンしちゃう!
「この子が、エリちゃん」
消太が言うと、エリちゃんはもじもじしながら私の方を見た。
「だぁれ……?」
私は、エリちゃんの目線に合うように屈んで笑顔を作った。
「初めましてエリちゃん。甘井っていいます!今日はエリちゃんの髪を切りに来たよ!」
「甘井……さん……?」
あら……人見知りなのかな……
「エリちゃんは、どんな髪型になりたい?」
「……さっぱりさん、したい」
消太にくっついたまま、エリちゃんが言った。
か、可愛いぃっ……!
こんなの、めっちゃ気合い入れて切っちゃう……っ……!
「じゃあ、さっぱりさんしよっか!絶対可愛くするから、任せて!」
私は気合十分で鞄からシザーケースを取り出した。
30分後。
「……わぁ……!」
手鏡を覗き込んだエリちゃんが、目をキラキラさせていたので私はホッと胸を撫でおろした。
伸びっぱなしだった所をカットして、少しレイヤーも入れてあげた。
よかった、気に入って貰えたみたい。
「わぁ、エリちゃんさっぱりさんだね!あ、僕髪の毛片づけるので!」
緑谷くんがわざわざ箒と塵取りを持って来てくれた。
「あ、わざわざありがとうございます」
「いえ!エリちゃんが嬉しそうで、僕も嬉しいです」
と、緑谷くんは無垢な笑顔で言った。
髪の毛を片づけて、袋にそれを入れながらチラッとエリちゃんの方を見ると、消太がエリちゃんの頭をよしよししていた。
なんか、親子みたいで可愛い……