第7章 夢中(相澤消太)
「ありがとうございました、またお待ちしてまーす!」
いつものようにお客さんが見えなくなるまで見送って、店の中に入る。
ここは、私が勤めている美容院。
小さめだけど、お客さんは皆いい人ばかりだし店長も優しくて、すごく気に入っている。
私が床に落ちた髪を掃いていると、電話が鳴った。
急いで電話に駆け寄って受話器を取る。
「はい、お電話ありがとうございま『繭莉か』
私の言葉を遮るように聞こえた声。
「……消太?」
『ああ、忙しい所悪い』
それは、恋人の相澤消太だった。
「どうしたの?何か……あった?」
消太は教師だけど、プロヒーローでもある。
まさか、どっか怪我でもしたんじゃないかと不安になる。
『いや……実は、お前に髪を切って欲しい人間がいるんだ』
なんだぁ……よかった、怪我とかじゃなくて。
「私に?」
『ああ。仕事終わってからで構わないから、雄英に来てくれないか?』
「うん……分かった。行く時、連絡するから」
『分かった』
髪を切って欲しい人……
誰だろう?
雄英に来いって事は……学校の人なのかなぁ?
電話を切ると、レジ締めをしていた店長が話しかけてきた。
「なぁに~?繭莉ちゃん、彼氏?」
「え、はい……なんか、私に髪切って欲しい人が雄英にいるみたいで」
「そうなの~?じゃあ、早く行ってあげないと!今日は私も保育園お迎えの日だから早く店閉めるし、閉店作業はいいから行った行った!」
そう言った店長が、私の背中をぐいっと押した。
「す、すみません!じゃお言葉に甘えて……お先に、失礼します」
「うんうん、いいよぉ!また明日もよろしくね!」
「はい、いつもありがとうございます!」
私は、店長に見送られて店を出た。
雄英に向かう途中で消太に今から行ける事を連絡して、電車に乗り込む。
……そういえば、消太に会うの、何だかんだで久しぶりだなぁ……お互い仕事、ちょっと立て込んでたし。
ちょっと、後でお手洗い寄って、メイク直して行こ。
……って、なんで張り切ってんだろ……
……なんてちょっとソワソワしながら、電車に揺られていた。