第6章 ブルーベリー・ナイツ(切島鋭児郎)
切島くんは、なにやら出口の方を指差している。
口の動きをよく見ると、『出ろ』と言っているようにも見える。
どうしたんだろ?
頼んだお酒をキャンセルして、お会計をしながら凌さんに謝った。
「すみません、頼んだのにキャンセルしちゃって……」
「いえ、待ち合わせしてらしたんですね」
「あ、えと……ごちそうさまでした、また来ます」
「ありがとうございました。また、お待ちしています」
お店を出ると、切島くんが私の所へ歩いてきた。
「悪ィ!歩いてたら、偶々甘井居たから。……なんか、テーブルに突っ伏してたし、また酔い潰れてんのかと思って」
「いや……ごめん、今日はその……あれ程酔ってない……」
よく考えれば、ちょっと気まずい……
そういや、未遂だけど切島くんともシかけたんだっけ……
そんな事を考えていると、切島くんが申し訳なさそうに言った。
「あの日も、悪かった。あんな状況で、電話なんか出ちまって」
「あ、いや……彼女の電話だったら、仕方ないって」
「カノジョ?」
切島くんが、何それみたいな顔をした。
「あおいって、彼女でしょ?」
私がそう言うと、切島くんはプッと吹き出した。
「は、違ぇよ、碧はいとこ!しかも、男だし」
「……へぇ……?」
ま、まさかのいとこで男……
「あ!だからあん時お前、帰るって言ったのか」
「そう、だけど」
「いや、わりぃわりぃ!勘違いさせちまったな」
私の、勘違いだったのか……
と、何故かホッとしている自分がいた。
「つーかさ……俺も、勘違いしたんだけど」
と、切島くんが少し真面目な顔をした。
「え、何を?」
「あん時、さ……」
あの時って……あの時か……
「甘井が、何か愚痴って、甘えてきてさ……あんな顔、見せられて」
あんな顔って、どんな顔してたんだろ……恥ずかし……
「俺の事、好きなんじゃねぇか……って思っちまった」
「……え……」
それって、どういう……
そう思って切島くんを見ると、彼はくしゃっと自分の髪を掴んだ。
「俺……甘井の事……ずっと、好きだったんだ」