第4章 夜明けがくる前に…【早川アキ夢・後編】
グラスに酒を注いで、改めて乾杯する。
話題を変えるように彼女が切り出したのは、居候していた頃の思い出話だった。
懐かしいエピソードに胸の奥があたたかくなる。
ふたりきりの部屋で楽しかった思い出を語り合っていると、ふと昔に戻ったような気持ちになった。
くだらない雑談や軽口を言って笑い合っていたあの頃、もう2度と戻ることはないと諦めていたあの時間の断片を大切にたぐり寄せながら、アキとルルはゆっくりと酒を飲んだ。
気がつくと、ウイスキーのボトルは空になっていた。
空腹のまま強い酒を飲んだからか、すっかり酔いが回ってしまったルルはアキにもたれかかるようにして目を閉じている。
「…こんな所で寝るなよ?」
『……ん』
声をかけても返事はなかった。
アキは小さくため息をつくと、彼女を抱き上げて部屋の奥にある大きなベッドへと運んだ。
静かに横たわらせ、身体を離そうとしたけれど、首筋に回されたルルの腕が解けない。
「ベッド、着いたぞ」
『……』
「……オイ…手を離せ…」
すると、アキの耳元でルルがポツリと言った。
『…まだ…帰らないでください』
「……分かった」
冷静さを保つよう自分に言い聞かせながら、アキはベッドサイドに腰掛けた。
『……隣……来て…』
「………ハァ………これでいいか?酔っ払い…」
小さくため息をついて隣に横になると、縋るようにルルの腕が伸びてくる。
アキは少し戸惑いながらも優しく抱きしめ返してやった。
「…大丈夫か?……水、飲むか?」
彼女は首を小さく横に振った。
甘えるように胸元に顔を埋める。
『……アキ先輩の匂いだ』
「フッ…犬かお前は」
『…昔…こんな風に一緒に寝てくれたことありましたね…』
「あぁ…懐かしいな」
アキはそう言って彼女の髪を優しく撫でた。
『………ねぇ。…先輩?』
「ん?」
腕の中でルルが顔をあげる。
『………キス、して欲しいです』